面接が終わった。
合格者はほぼ決まっていた。
社員を減らし過ぎ、社内の雰囲気が悪くなっていた。
「どう思うかね?」
専務が人事課長に聞く。
「もう決定では……」
「あの五人でいいのかね」
「蒔田政勝は駄目でしょ。ですから、この五人で」
「だから、どう思うと聞いているんだがね」
「では採用は六人で……」
「一人でも多いほうがいいと思うがね」
「専務がそうおっしゃるのなら……」
「不服かね?」
「お知り合いでしょうか?」
「そうじゃない」
「専務もご覧になりましたでしょ。社員になりたいだけの若者です」
「間違ってはいない」
「ええ、ですから、その上で何が出来るとか、どういうことをやりたいとか……」
「だからね、そういう嘘は聞き飽きたんだよ。あの男にはその演技がない」
「だから、他の役員もハネたのですよ。嘘でもいいからやる気のある人に入ってもらわないと……」
「そうなんだがね」
「では、採用は五人ということで……」
「五人で足りるの?」
「今よりはましでしょう」
専務は蒔田政勝の連絡先をメモした。
そして数日後、個人的に会った。
「君はどうして面接であんな応え方をしたのかね。これは私が個人的に知りたいだけで他意はない。興味本位だ。面接用のマニュアルがあるだろ」
「はい」
「あれでは不採用になることぐらい分かっているはずだ」
「思っているままを話しただけです」
「社員になり、安定した収入を得たいのはみんな同じだ。それを得るには、採用されるような演技も必要なんだ。仕事とはそういうものなんだ」
「あれも演技です」
「どういうことかね?」
「就職活動をしていればいいのです」
「じゃあ、採用されまいと思いながら来たのかね」
「働きたくない。これが本音です」
専務は黙った。常日頃思っていても言ってはならない禁句だった。
了
2006年6月11日
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