小説 川崎サイト

 

最後の喫茶店

川崎ゆきお





 三村は小銭しかないことに気づいた。
 もう使えるお金は小銭だけになった。
 いきなり気づいたわけではない。
 そうなることを数日前からわかっていた。
 最後の千円札を使ったのは昨日のことだ。だから、昨日すでに気づいていたはずなのだ。しかし、それを意識したくなかった。そういう状態を改めて確認したくなかったのだ。
「最後の喫茶店へ行きたい」
 その望みは、ポケットの中の小銭では果たせない。
 喫茶店へは行けるだろう。中に入れるだろう。しかし、出るとき払えない。だから、金額的に行けないのだ。
 お金の問題を何とかしたい。それを喫茶店で考えようとしていたのだ。金策の作戦だ。
 三村は部屋中を探した。埋蔵金だ。だが、それは過去何回かやっており、主だった場所からはもう掘り出していた。
 それ以外の場所になると、そこにお金をしまい込んだ記憶がないため、無駄な行為になる。
 それでも机を整理すると、百円玉が出てきた。これは自販機へ行くとき出した小銭を何かの都合で置いたのだろう。微かながらその記憶がある。
 次は鞄だ。
 鞄の中に小銭入れることがある。そして、別の鞄を使い出すと、そのことを忘れている。鞄を変えるとき、小銭も取り出しているはずだが、取り忘れがある可能性もある。
 これも過去何度かやっている。
 だから、かなり前に使っていた鞄にはないはずだ。
 三村は無造作につるされていた鞄を見る。その鞄は最近使ったものだ。これは初めて探す鞄かもしれない。
「五百円玉だ」
 三村は最後の喫茶店へ行くことができた。
 そして、金策について作戦を練った。
 誰から借りるかを考えただけのことだが。
 そして、友達を順番に訪ねることに決め、喫茶店を出ようとした。
 そのときだ。
 指のあたりが違う。
「五百円が」
 落としたわけではない。
 パチスロのコインだった。
 
   了
    


2010年5月17日

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