小説 川崎サイト

 

力半分

川崎ゆきお





 杉田は実力の半分も出さないで、試合に負けた。
「みんなよく頑張った、持てる力のすべてを出して負けたのだから、胸を張って帰ろう」
 杉田はほっとした。
 杉田以外にも力の出し惜しみをしているメンバーがいた。高島だ。
 杉田は高島と目が合った。
 高島も杉田を意識していたのだ。
 村田も力を出し切っていない。七分ぐらいの力で戦っていた。木下は六分だ。
 一番頑張ったのは坂上で九分の力を出しており、ほぼ全力で戦った方だ。
「次は坂上がキャプテンだな。一番活躍したんだから」
 高島が言う。
「失敗したよ。つい、かっとなって」
「勝とうとしたの」
「いや、そうじゃない。力をセーブする力がないんだ。つい我慢できずに」
「いいじゃない。コーチもほめていただろ」
「ああ、百二十パーセントの力を出したって」
「きっと、コーチは君をキャプテンにするよ」
 力の半分以下で戦った杉田はキャプテンの座を明け渡すことになる。杉田としては、予定通りだ。
 高島は杉田の作戦を見抜いていたので、何度も意味深げに視線を投げかけている。うまくやったじゃないかと」
 見抜かれた杉田は高島に目で合図をする。少し目を細めて、苦しそうな顔を作れば、高島には通じる。
「しかし、あのコーチ、どこまでわかっているのかなあ」
 杉田が高島に聞く。
「全部わかっているんじゃないかな」
「そうだよね。あれだけ手抜きの試合をやったのに、持てる力を出し切って、なんて、皮肉だよ」
「同類だよ。あのコーチも」
「やっぱり」
「ああ、あのコーチも力の半分以下、下手すりゃ四分の一ほどしか使ってないよ」
「コーチやめたいのかな」
「うん、そうだと思う」
 このチームは日本ランキングベストテンに常に入っていた。最高ランクはベストスリーだ。
 常にベストフォーには入っている。
 次のシーズン、力の九割を出した坂上がキャプテンになり、コーチは交代した。
 一番悪い札を引いたのは坂上で、頑張りすぎた報いだった。
 次の試合、坂上は半分以下の力で戦い、めでたくキャプテンから降りた。
 
   了



2010年5月22日

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