小説 川崎サイト

 

プラン

川崎ゆきお




「何でもいいんですよ。何でも」
「そういう人ほど、何でもよくないんじゃないですか」
「何でもいいと、言ってるでしょ」
「じゃ、このサービスでよろしいですね」
「プランAとBとでは、どう違うのかね」
「ほら、何でもよくないでしょ」
「違いぐらいは知る方がいいだろ」
「違いを聞いて、決めるわけですね」
「参考までに聞いてるだけだよ」
「プランAのほうが多少サービスが良くなります」
「ほほう……多少ねえ」
「気になりますか」
「違いがね」
「プランAは二十名様。プランBは六十名様です」
「人数が違うのかね」
「二十人相手と六十人相手では多少違うでしょ」
「どういうふうに?」
「二十人学級と、六十人学級の違いのようなものです」
「それは、分かりやすい違いだね」
「多少の違いですよ。これが二百人学級となると、大きな違いですがね。目も手も届かない」
「六十人なら届くと」
「そうです」
「じゃ、Bプランでいいよ。その程度の違いなら、値段も安いし」
「はい。Aプランの半額です」
「そんなに差があるの」
「人件費の違いのようなものです」
「なるほどね。サービスの差はほとんどないが、値段の差はかなりある。だったら、安い方がいいに決まってる」
「じゃ、Bプランに決定しますか?」
「まずいことにはならないかね。金をケチったため、思わぬことになるとか」
「リスクの差はほとんどありません。Bプランで起こるようなリスクは、Aプランでも起こります」
「なるほど。サービスのいいAプランでも、リスクはぐっと低くなるわけではないと」
「そうです」
「じゃ、どうして、二つプランがあるのかね。それなら、一つでいいじゃないか」
「Bプランはお得なので、売り切れになることがあるのです。だから、いつでも買えるAプランを用意してるだけです」
「今は?」
「Bプラン、あります。すぐに買えますよ」
「じゃ、Bプランでいい」
「お一つでいいですか」
「え、何が」
「二つでも三つでも買えますよ」
「一つあれば、十分だろ」
「予備に一つか二つあれば、便利ですよ」
「あ、そう」
「どうされます」
「何でもいいよ」
「じゃ、合計三つ、お申し込みと言うことで」
「君がその方がいいというのなら、そうしてくれ。最初から何でもいいと言ってるんだから」
「はい、じゃ、これで商談成立です」
「支払いは?」
「Bプランの場合は現金です」
「Aプランの場合は?」
「カードも使えますし。分割も可能です」
「それが、サービスの違いかね」
「はい」
「しかし、Bプラン三つだと、Aプラン一つより高額になるがね」
「Aプラン三つなら、Bプラン三つより高額になります」
「あ、まあ、そうだが」
「では、お支払いは現金でお願いします」
「もう一度、考えてからくるよ」
「決められたんじゃないのですか」
「いろいろ聞いていると、迷いがでたんだよ」
「あ」
 
   了

 


2010年6月17日

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