小説 川崎サイト

 

日記

川崎ゆきお




 西野はまたブログを作り、また放置した。これで何度目だろうか。インターネットがまだ一般的ではなかった時代からネットに関わってきていた。
 パソコン通信時代から草の根ネットを巡回し、たまには書き込んだり、コミュニティーにも参加していた。
 それが一般的になり、誰でもブログを開設できる時代になったのだが、それが続かないのだ。
 ブログを作っては解除し、作っては解除した。
 その理由はわかっていた。
 孤島になるためだ。
 つまり、訪問してくれる人がいないのだ。そのため、オフラインで日記を書いているのに等しい。それなら別にネット上に日記をおく必要はないのでは……となる。
 リアルでの知り合いは少なからずいる。全くいないわけではない。その知り合いにブログを開設したと伝えたり、相手のブログにコメントをつけたりもした。
 だから、交流を避けているわけではないのだ。むしろ交流を求めていると言ってもいい。
 しかし、誰も相手にしてくれない。
「どういうことかなあ」
 西野はリアルの友達である花坂に聞いた。
「それは違うからだよ」
「違う? 何が?」
「リアルの西野君とネット上での西野君とでは違うためさ」
「そりゃ書き言葉なんだから、多少は格好をつけるよ」
「それでも違いすぎるんだな」
 そんなことが理由だとは西野には信じられない。電話で話すのと、手紙で書くのとでは違いがある。それは誰にでもあることだろう。
 そこを花坂に説明を求めた。
「西野君の場合、悪い面が出すぎなんだよ。はしゃぎすぎというのかな」
「前に、君からそう指摘されて、修正したよ」
「どういうのかなあ、重いんだよなあ」
「それは……」
「西野君の世界に入り込みたくないんだよ。リアルだと別にいいんだけどね」
「僕の世界?」
「そう、何か演じているような、妙な臭いがするんだ。こんな人に関わると、面倒だなあと思うようなね」
「それって、誰でもじゃないのかな」
「リアルの君は至ってノーマルだよ。だから、リアルではつきあってるじゃないか。でもネットでの君は違う。君の本心がネット上でですぎている」
「同じだと思うけど」
「濃いんだ」
「はあ?」
「濃くて、重いんだ」
 西野は納得できない。
「わかった。薄く軽くするよ」
 西野はブログをまた作りなおし、薄くて軽い日記を書いた。
 花坂はそれを見たが、反応しなかった。空々しい嘘を書いているように見えたからだ。
 西野は日記を二日だけ書き、三日目から放置状態になった。
 いつものことだ。
 
   了



2010年7月5日

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