怠け者
川崎ゆきお
怠け者の滝田は怠けることの優位性を強調したかった。
これは、怠けた方が得ではないかと考えたからだ。この発想は決して怠け者にはできないことで、非常に建設的で積極的な行為なのだ。
架空のエピソードを滝田は考えた。
それは前向きの人と後ろ向きの人の話だ。結論は最初から出ている。なぜなら滝田は怠け者なので、怠け者の肩を持つからだ。従って後ろ向きの人、考え方が後ろ向きの人が勝つ話になる。
ある会社の新入社員の話をでっち上げた。
いつも前向きの社員と、そうでない社員の話だ。
前向きの人は仕事をよくこなし、出世していく。一方後ろ向きの人は評価されず、出世しない。
だが滝田はここで詰まった。
なぜなら、出世できるような景気のいい会社などあるだろうか。また、出世しても会社がつぶれれば、出世が出世でなくなる。
だから、このエピソードは使えない。前向きでも後ろ向きでも同じことになり、後ろ向きの人の方がダメージが少ないということで、簡単に勝ってしまう。それではエピソードとしては面白くないのだ。
会社がつぶれて再就職をする場合、前向きの人の方が積極的に就職活動をし、早く就職できるはずだ。
そうなると、前向きの人の方が得だ。勝者は前向きの人になる。
どちらにしても就職しないと食べていけないのだから、いくら後ろ向きの人でも、働かないわけにはいかない。
それで滝田は、後ろ向きの人の有利性が語れなくなり、この話を中断した。
もし、会社がつぶれないことを前提にした話に戻すしかない。絶対につぶれないような会社や勤め先にすればいい。
それで、二人の新入社員の十年後のエピソードを考えた。
前向きな人は出生しており、係長から課長になっていた。後ろ向きの人は平のままだ。
滝田の案は平の方が負担が少なく、楽だという方向に持ち込んだ。だから、後ろ向きの方が勝ちだと。
だが、これは滝田の価値観で、世間の価値観ではない。
楽であるということが勝利になる条件はあまり聞かない。苦しく辛いことを乗り越えてこそ勝ちがあり、勝利のドラマも盛り上がる。
つまり、後ろ向きで怠けたい人のドラマは盛り上がらないことを改めて知った。
怠けたいが為に苦労するというのは、目的がよくないため、受け入れられにくいだろう。
また、怠けたい人は、最初から怠けているわけで、これは努力さえしなければ達成できることなのだ。
滝田はエピソードを練り直そうと思ったが、それも邪魔くさくなり、放置した。
了
2010年8月6日