ウサギ
川崎ゆきお
「なにをおっしゃるウサギさん」
「私はウサギではありません」
「そんなことはわかっとる」
「じゃ、どうして私はウサギなのですか? ウサギの特性を私が持っているのでしょうか」
「君の提言に対して返しだよ」
「しかし、私はウサギではありません」
「君はウサギとカメの話を知らないのかね」
「ウサギとカメがかけっこする話でしょ。結果はカメの方が早かった。この話謎です」
「ウサギとカメが競争して、ウサギが勝てば話にならんだろ。そんな当たり前の話を作る必要はない」
「その中に(なにをおっしゃるウサギさん)の言葉があるのですね」
「そうだよ。日本人なら誰でも知っている」
「私は初めて聞きました。これを言っているのはカメですか? ウサギに対して喋っているのですね」
「そうだよ」
「では、ウサギはなにを(おっしゃった)のでしょう」
「なにをって……そんなことはどうでもいいんだよ」
「では、私はどういった存在としてあるのですか」
「そ存在」
「つまり、あなたが(なにをおっしゃるウサギさん)という理由です。あなたは私をカメよりも早いはずのウサギだと思っているのですか」
「まあ、そうだよ」
「ほかに言い方はありませんか? 私は油断してカメに負けたウサギではありません。それに私には名前があります。決してウサギではありません」
「君はねえ。無理にそういうことを言っているのかね」
「無理ではありませんが、気になったので」
「なにをおっしゃるウサギさん」
上司は思わず言ってしまった。
了
2010年8月31日