小説 川崎サイト





川崎ゆきお



 三条荒巻町で自転車による連れ去り未遂事件が起きた。少女は荷台に乗せられたが、飛び降りて逃げている。
 家まであと少しの距離で、その間、一人になっていた。
 警察の聞き込み捜査で数日前から町内をうろうついている不審な自転車があることが分かった。
 少女の記憶がどこまで正しいかは別にして、その男が怪しいとなった。
「よく見かけまっせ……最近。自転車であっちの道、こっちの路地と、この辺を走ってましたで」
「私も見ました。交差点で止って、キョロキョロしてましたわ」
 その男が目撃された場所が住宅地図に書き込まれた。三条荒巻町周辺のいたるところにマークが入れられた。
「チラシの配達員やないかな」
 捜査主任が言う。
 その男の似顔絵が作られた。自転車はよくあるシルバーのママチャリだ。
 翌日、その男が町内に現れた。すぐに通報で警官がかけつけた。
 男は不審者に間違われることに慣れているらしく、すぐに免許証を見せた。
 しかし、ただの不審者ではなく、容疑者になっていることを男は知らない。
「主任、これは全国ニュースになりまっせ。慎重に取り調べな」
「分かってるがな。連れ去り犯逮捕やからな」
「未遂でっせ」
「未遂犯逮捕や」
「記者会見は署長がやるのかなあ」
「三条荒巻署が全国区になるぞ」
 少女は、はっきりとは覚えていなかったので、この人ですとは言えなかった。しかし違うとも言わない。
 自転車を見せたが、色や形までは覚えていない。
 男は、目的があって自転車で走っていたと言う。
「その目的は連れ去りやろ! いたずら目的やろ」
「顔です」
「少女の顔が気に入ったのか?」
「顔を書いてました。今日もその続きで、やっと完成します」
「書いたの見せてみい」
 男は地図を出した。
 地図に男が走った道路がマーカーでなぞられていた。
「ほら、人の顔に見えるでしょ。あとは左耳に見えるように、この路地を抜ければ……」
「ややこしいこと、すんなー」
 主任は思わず怒鳴りつけた。
 
   了
 




          2006年6月15日
 

 

 

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