小説 川崎サイト

 

遮断機

川崎ゆきお




 これはよくある話ではないが、よくある場所での話だ。しかし時間帯は深夜で、よくある時間ではない。
 郊外のよくあるような私鉄の踏切だ。
 遮断機が降り、カンカンとけたたましい音を立てている。深夜だ。もう電車は走っていない。
 しかし、工事用の作業車が通るのかもしれない。
 増田はそれだろうと最初思った。昼から仕事に行く増田は、人よりも夜更かしする。仕事が終わるのが夜なので、どうして深夜時間帯まで起きている。
 それで、コンビニでおやつを買っての戻り道だった。おやつは増田の楽しみで、最近はポテトチップを続けて買っている。お金のあるときはショートケーキを二つ買う。一つではすぐに食べ終えてしまうためだ。
 自転車の前かごに突っ込んだコンビニ袋は軽い。ポテトチップだけの目方のためだ。
「おやっ」と感じたのは、なかなか電車がこないためだ。
 戻ってから録画したプロ野球を見る予定なので、野球のことを考えていたため、踏切がなかなか開かないことに気づかなかった。これが急いでいれば、遮断機が上がるのをじっと見ていただろ。
「故障」
 当然の発想だ。どう理解するかの問題だが、これしかないだろう。
 五分以上経過した。
 まだカンカンと鳴っているし、遮断機は上がらない。
 左右を見ても、電車らしきものは見えない。明かりが近づいてくるはずなのだ。
 別の踏切で渡ろうと移動しようとしたとき、カンカンの音が高くなった。
 そして、光がこちらに近づいてくる。
 故障ではなく、やはり電車が近づいていたのだ。電車に何かがあり、通過が遅れたのだろう。
 そして電車は来た。
 ガタンゴトンのリズムがいつもの電車とは違う。
 かなりスピードが遅いのか、なかなか車両が見えない。
 やがてやってきた電車を見て、増田はきょとんとした。
 工事用の車両がくると思っていたのだが、普通の電車だった。
 しかも満員電車だった。
 通過後、カンカンは止み、遮断機が上がる。
 増田は一気に踏切を渡った。
 
   了


2010年9月18日

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