同じ穴の
川崎ゆきお
「君の世界と私の世界とは違う」
「それは考え方の違いということですか。あるいは生きている環境などの世界が違うという意味ですか」
「まあ、そうだ」
「でも、同じ世界に生きていますよね。高橋さんだけの世界があって、その世界には私は入れない。世界が違うとはそういうことですが、でも、同じ現実の上で暮らしているわけですから、同じ世界を生きているのは確かでしょ。そうでないと、私の存在は高橋さんの世界の中のキャラクターになってしまいます。と、いうことはです。これは高橋さん中心に考えた配置じゃないのですか」
「君とは生きている世界が違うんだ」
「やはり考え方、生き方の違い程度の問題ですね」
「まあ、そうだ」
「と、いうことは、同じ世界に生きているもの同士のちょっとした違いをいっているだけなんですね」
「別世界だ」
「いや、だから、世界は一つでしょ。別世界とは異界のことですか」
「異界？」
「世界が複数あり、こことは違う世界が別にあるような」
「異界とは何だ」
「異なる世界です」
「じゃ、異界だ。君とは」
「どちらが異界ですか」
「君の世界が異界だ」
「でも、こうして一緒にお茶を飲んでいますよね。店の名前も、この通りの名前も、駅の名前も共通しているのではないですか。別世界、異界なら、違う町になると思うのですが」
「君とは生きている世界が違うといってるだけだ」
「だから、私を拒否するのですね」
「そうだ、君は人間じゃないじゃないか」
「そういう高橋さんだって、そうでしょ」
「僕は人間に近いよ。君はかなり離れておる。どう見ても人には見えない。僕は知らない人が見れば、人間に見える」
「それは化け方がうまいだけの話じゃないですか。同じ穴の狢なのに。仲良くしましょうよ高橋さん」
「君とは毛並みが合わん」
「ほら、人なら肌が合わないというところですよ」
「よけいなことを」
「また、町で出合ったらお話ししましょうよ」
「次は声をかけるな！」
「はいはい」
了
2010年10月28日