小説 川崎サイト

 

畑の魔獣

川崎ゆきお



 豊かな緑に包まれた農村。森を切り開き、畑がが広がっている。
 その畑の下から妙なものが現れた。イノシシほどの大きさだ。
 しかし、イノシシではない。いわゆる魔獣なのだ。
「また出たかい」
 発見した少年が、お爺さんに報告した。
「旅立つ日が来たようじゃな」
「えっ、なに? お爺ちゃん」
「あれは魔獣じゃ。このところよく出よる」
「それと旅立ちはどう関係するの」
「ああ、ピンとこないのなら、それでよろしい。うんうん」
「へんなお爺ちゃん」
「魔獣は強い。近づくな」
「でも畑仕事ができないよ。だから退治するね」
「魔獣退治か……」
 少年はお爺さんから古いショートソードを借り、畑に出た。
 イノシシのような魔獣は畑のそばの茂みにいた。
 少年が近づいても魔獣はじっとしている。
 少年は魔獣に近づき、ショートソードを突き出した。まだ距離がないため突き刺さらない。軽く、魔獣の毛に当たっただけ。
 魔獣は攻撃されたことを知り、少年に突進した。
 少年は尻餅をついた。
「まだ、餅つきの季節じゃないぜ」
 年上の少年が矢を射た。
 魔獣はそこで沈黙した。
「行くぜ」
「どこへ」
「決まっているじゃないか。魔獣が現れたんだ。この親玉を退治するための長い旅に出るんだ」
 少年は黙って頷いた。
 それから二日後、少年は村に戻ってきた。
「旅だったのじゃないのかい」
 お爺さんが尋ねる。
「怖いのでやめた」
「そうか」
「村から出ると、もっと強い魔獣がうじゃうじゃいて、前に進めなくなったんだ」
「他の子供は旅だったぞ」
「知ってる。僕もついていったんだけど、無理だ」
「そうか。わしの若い頃と同じじゃ。おかげでこうして長生きしておる」
「でも、魔獣をやっつけないと」
「おまえがやらなくても、誰かがやるよ。それに魔獣は退治しても、また何年か先に出る。きりがないのだ」
「そうだね。僕は畑に出る魔獣だけを退治するよ」
「あの魔獣はこちらから攻撃しなければ襲ってこん。まあ、せっかく作った芋を食べられてしまうがな。まあ、全部は食べられんから、気にすることはない」
「じゃ、魔獣退治の旅に出なくてもいいんだね」
「ああ、いいんだ」
「よかった」
 少年は安心した。
 
   了


2010年11月10日

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