小説 川崎サイト

 

レベル差

川崎ゆきお



「レベル10とレベル7の人間との戦いだけどね」
「ゲームの話ですか?」
「いや、リアルでの話だ」
「でもレベル10とか7とかの言い回し方はゲームのそれですよ」
「まあ、聞くんだ」
「はいはい」
「どっちが強いと思う?」
「レベル10に決まってますよ。レベル7のほうが強いとなると、レベルという概念の意味がなくなるじゃありませんか。答えは最初からでているんです」
「そうなんだがね。でもレベル10の人が、レベル10の力を発揮できなければどうだい」
「そんなことがあるんですか」
「一番強い状態が10だ。レベル7の人も、一番強い状態が7だ」
「つまり、力を出し切れない戦いもあるわけですね」
「それが現実だよ」
「レベル7の人が、レベル10の人の力を5ほどしか使わせないようにすれば、勝てる」
「でも、そうさせないところがレベル10の人の実力でしょ。逆にレベル7の人の力を3ぐらいしか発揮させないようなこともできるわけだし」
「そうだね。それが現実だね。レベル10の人と7の人が戦ったとき、最初から7の人は3ぐらいにまで落とされているのかしれない。つまり、プレッシャーで力が発揮できない。本当はレベル7の力があるのにね」
「だから、レベル10と7の人の違いが最初からあり、レベル通りになると思いますよ」
「強い人は、より強くだ」
「弱い人は、より弱くですね」
「そう、それが現実だよ。そして、現実ではレベル10の人とレベル7の人とは戦わない。レベル10の人は戦ってもいいと思っている。勝てるからね。でも負けると思っている7の人は戦わない。逃げるでしょうね」
「でも、何かの都合で、戦わざるを得なくなったときはどうします」
「7は、まともに戦っても負けるわけだから、戦うのではなく、逃げ方を考える」
「それでも、追いつめられて、戦わなければいけなくなったら」
「逃げきれなくなれば、戦わずに降参するだろうね」
「抵抗しないのですか?」
「負けるに決まっているんだから、無駄なことはしない」
「でも、抵抗する人もいるでしょ」
「それは、自分がレベル7だとは思っていないか、勘違いしているかだ」
「やっぱりレベル7には勝ち目はないと……」
「そうだね。レベル11になれば、勝てる。だから、7の人は実力を磨いて、11になることを目指せばいい」
「ああ、まだ上があるんだ」
「そう、そして7の人は11の人を連れてくればいいんだ。すると10の人は逃げるだろう」
「それは戦術で勝つのではなく、戦略で勝つという意味ですね」
「そうそう、しかし11の人に借りができる。まあ、お金を払えば解決するかもしれない。そう簡単には味方してくれないからね」
「人生に役立ちそうです」
「勝てない相手とは戦わない。これが知恵だ」
「はい、わかりました」
 
   了


2011年1月14日

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