小説 川崎サイト

 

心霊撮影

川崎ゆきお



 小学生が船に乗っている写真がある。修学旅行での記念写真だ。
 稲垣は懐かしそうに、その写真を見ている。
 担任の先生や、同級生が蘇る。
 そこに写っている同級生の何人かは大人になった姿を見ているが、記憶が小学生のままで止まっている人の方が多い。その後会っていないからだ。
 そのため、急に同級生と出会っても、誰だかわからないだろう。しかし、名乗られると、あの顔がこうなったのかと、何となく繋がりがわかる。小学生当時の顔が、どこかにまだ残っているためだろう。
 土産物店が並ぶ通りで、数人の同級生が写っている。当然稲垣もその中に入っている。
 これらの写真は、自分が写っている写真だけを買ったものだ。
 それからもう何十年にもなる。
 よく捨てないで、持っていたように思う。
 実家の押入からでてきたもので、持ち出さなかったため、残っていたのだろう。当時の鉛筆や消しゴムも、その段ボール箱に入っていた。
「心霊写真がある」と、聞いたのは、数日前だ。この当時の同級生沢村と偶然会ったときのことだ。
「どれだかわかるかい」
 稲垣の持っている写真の中にも沢村は写っている。当然沢村はそれを買っている。
 何か霊のようなものが写り込んでいるのかと聞くが、そうでないようだ。
 また、本当は死んでいるのに、修学旅行に来ている同級生がいるとか……。
 それでもないようだ。
 それに、同級生の誰かが死んだ話は聞かない。
「何が写ってるんだい」
「全部だよ。全部」
 意味が分からない。
「全部ってことは、全員が死んだの?」
「そんなわけないだろ。僕も君も確かに生きている」
「じゃ、全部って、どういう意味だ」
「写っている人だけじゃない」
「え?」
「船や海や、土産物屋も、全部さ」
「何だい、それ。どこが心霊写真なんだ」
「あの写真、誰が写したんだ」
「写真屋のおじさんだよ」
「その人がね……」
「あのおじさんがどうしたの」
「覚えてる?」
「そういう人がいたことは覚えているよ」
「そういう意味だよ」
「え、何、わからない」
「あの写真屋さん、事故にあったんだよ。修学旅行前に」
「えーと……」
「理解できた?」
「じゃ、誰が写したんだ」
「あのおじさんだよ」
「嘘だろ」
「ああ」
「たちが悪くなったなあ沢村君」
「そうかな。昔から、からかうの好きだったよ」
「あのころは、おとなしい子供だったよ」
「ああ、そうだったか」
 
   了


2011年1月18日

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