小説 川崎サイト



オンリーワン

川崎ゆきお



「オンリーワンで行くしかないか」
 イラストレーター志望の龍一が言う。
 「ナンバーワンを諦めるの?」
 彼女の玉美が不機嫌な顔で問う。
「どの公募に出しても佳作止まりだし」
「超一流のイラストレーターになりたかったんじゃないの」
「オンリーワンのほうが流行ってるんだよ。ナンバーワンなんてもう古いんだぜ」
「諦める人が増えただけじゃん」
「一流って、維持するの大変なんだよな」
「でも、有名になれるじゃないの。一回でもトップとったほうが、あとあと楽だと思わない?」
「トップランナーも疲れるさ」
「心配だわ、そんなことで食べていけるの?」
「だからさ、ナンバーワンでなくても食ってる先輩いっぱいいるよ。心配しなくてもいいから」
「ほんとかあな……長続きしないんじゃない」
「やめて行く先輩も多いけどさ。営業力で切り抜けるんだよ」
「その先輩たちも一流を目指してたんでしょ」
「俺と同じ齢の頃はね。でも現実は厳しいらしいよ。全員がナンバーワンで、トップランナーってわけにはいかないんだからさ。殆どが負け組さ」
「だから、最初から、諦めるの?」
「諦めちゃいないけどさ。佳作でよく出来ました程度の力しかないんだな。これって努力じゃなく、才能なんだよ。あとは運かな」
「じゃ、運しか残ってないじゃん」
「うん」
「イラストレーターって儲かるんでしょ?」
「一流はね」
「じゃ、だめじゃん。二流とか三流じゃ。やっぱりナンバーワン目指しなさいよ」
「だから、さっきから言ってるじゃない。オンリーワンがあるって。ナンバーワンを目指すよりオンリーワンを目指す時代なんだよ」
「じゃあ、どうするのよ?」
「マイイラストを書くんだよ」
「何それ」
「自分のイラストを書くんだよ」
「それって、普通じゃない」
「普通って?」
「龍ちゃんがいつも書いてるいつもの絵を書くだけの話でしょ。それでだめだから佳作なんでしょ」
「馬鹿にすんなよ。佳作入選だけでも凄いことなんだからさ」
「じゃ、もっと喜んでよ。佳作に入ったって」
 龍一は仕方なく喜んでいる表情を作った。
「苦しそう龍ちゃん」
 
   了
 




          2006年6月23日
 

 

 

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