小説 川崎サイト

 

避寒

川崎ゆきお



 寒い日が続いているので、岡村は避寒の旅に出た。
 と、言ってもエアコンがあれば、そんなことをする必要はないのだが、室内ばかりにいるわけではない。
 外に出ると寒い。この温度差が応える。
 そこで、南の島に行ったわけだ。ここは真冬でも春先の暖かさがある。
 島はリゾート地になっているが、客は少ない。さすがに海で泳げるほどには暖かくはないからだ。
「おや、あなたもですか?」
 民宿で知り合った客と話す。
 岡村と同じように、この紳士も避寒らしい。
「温泉地の方がよかったのじゃないですかね?」
「あなたもそう思いますか。実は私もなんです」
 岡村と同意見だ。
「しかし、温泉がある観光地は、ここほどには暖かくはありませんよ」
「そこなんです」
「そうでしょ、だから、このリゾート地がいいんですよ。暖房装置はいらないです」
 だが、二人とも、温泉地に未練があるようだ。
「雪国の温泉地の方が避寒にはふさわしいように、今でも思うんです」
 その客は一週間ほど滞在していた。
「じゃ、今からでも北へ向かいますか」
「いや、雪国じゃなくても、気温の高い地方で、そして、温泉宿がある場所がいいんです」
「なるほど」
「この島ほど暖かくなくてもいい」
 翌日、その客は旅だった。
 岡村は、三日ほど滞在し、その意味が分かった。
 風邪っぽいのだ。
 つまり、春先の暖かさのため、暖房設備がないのだ。
 自分の家で寝ているよりも寒いのだ。
 民宿にはエアコンがない。暖房にできないのだ。
 岡村の避寒は失敗に終った。
 風邪をひきにいっただけの避寒だった。
 
   了


2011年2月12日

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