終点
川崎ゆきお
北森町のバス停は市の端にあった。隣の市との境界線だ。
北森町行きの市バスで北森町へ行く人は少ない。ほとんどその手前で降りてしまうからだ。
その状態でバスは北森町に到着した。地元の老人だろうか、二人降りた。
あと三人残っている。
「終点ですよ」
運転手が声をかける。
三人の男はバラバラに座っている。
まだ若い男、中年男、そして老人だ。
三人は、間隔を置きながら下車した。
そしてバス停前でも間隔を置いて立っている。
田畑と工場と、安っぽい民家が道の沿道にある。
三人はそれぞれ周囲を見渡している。
田畑の向こう側にこんもりとした茂みがある。
小さな神社のようだ。
三人の行動は任意のようで、それぞれ行き場所を探しているようだが、歩き出すと同じ方角になった。
市道から田畑へ出るあぜ道がある。それが茂みへと繋がっているらしい。
若い男が先頭を歩き、続いて中年、そして老人。
あぜ道が果てるところに農家が集まっており、そこを抜けると鎮守の森に出た。森というほどの広さはない。
無人の神社らしく、鳥居と本殿だけしかない。
その本殿の脇に瓦が積み重ねられている。それなりの仕来りなのではなく、瓦の捨て場になっているのだろう。
本殿は瓦葺きだが、結構古い。だから、神社の瓦ではない。誰かが置き場所にしているのだろう。
三人は、まるで観光客のような装いで境内を探索している。しかし、見るべきものはなく、本殿を一回りすれば、それで終わってしまう。
老人は狛犬を見ている。中年男は手荒いの竜の口を見ている。水は出ていない。若い男は本殿裏にあるお稲荷さんの社を覗き込んでいる。
三人ともゆるりとした歩き方で、特に見るべきものはないはずなのだが、一番背の高い大木の枝振りを見たり、雷でも落ちたのか、幹の割れ目を見ている。
そして、小一時間ほど見学し、バス停へ戻った。
バスは二十分後に来た。
三人は乗り込む。
当然のように、距離を置いて座った。
了
2011年2月20日