小説 川崎サイト

 

ゴブリン山

川崎ゆきお



 ビレンチの町は街道の途中にある。
 その街道は冒険者街道と呼ばれている。
 冒険の途中の町で、近くにゴブリンと呼ばれる子供ほどのモンスターがいる。
 そのゴブリン山のボスを倒すが冒険者の仕事になっている。
 子供ほどの背丈しかなく、ほぼ裸で武器は棍棒だ。そのため、いくらボスでも冒険者の刀剣にかかればわけなく倒せる。ただ、ボスの周囲に子分が多くいる。それを倒すのが、やや面倒な程度だ。
 その日も一人の冒険者がビレンチの町にやってきた。
 宿屋の亭主は、もうすっかり慣れた対応で、ゴブリン山への行き方を説明した。
「今ならボスがいますよ」
「え、いないときもあるのですか」
「あなたのような冒険者がボスを倒していくので、ボスができるまで、しばらく待たないとだめなんですよ」
「しばらくって?」
「二、三日ですかな」
 冒険者は安心した。それほど待たなくてもいいからだ。
 三日前、冒険者が来て、ボスを倒して立ち去ったらしい。だから、三日経過しているので、新しいボスがいるはずだという。
「ボスはどうして生まれるのですか?」
「子分の誰かがボスになるんですよ。一番体の大きな奴が。しかし、週に一度ほどボスは倒されるので、もうあまり大きなボスはいないと思いますよ。ボスといってもこの前まで子分だった奴ですから」
「じゃ、弱いのですね」
「ゴブリンはそれほど強くないモンスターでしてね。ただ、集団で襲ってくるから危険ですよ。それに猿に毛の生えた程度ですが、知恵もあります」
「じゃ、賢いのですね」
「あなた、猿よりは賢いでしょ?」
「はい、そのつもりです」
「人と猿の差があれば、十分です。なぜなら、ゴブリンは猿以下ですから」
「何か、聞いていると安心します」
「みなさん、そうおっしゃります。そして、簡単に倒せるので、町は寂れてますよ。長逗留してくれないですからね。最近じゃ、このビレンチのコブリン山をパスして、先へ行く人が多いです」
 冒険者は、もうその人のうちにゴブリン山に登り、襲ってくるゴブリンたちを簡単に退治し、ボスの前まで来た。
 宿の主人がいっていたように、子分と大きさはそれほど変わらない。
 冒険者は、なにも考えず、ボスに近づき、剣を振るった。
 ボスはあっという間に倒れた。
 宿屋の主人のいうとおりだった。
 町に戻った冒険者は、そのまま旅立とうとした。もう用が済んだためだ。
「まあ、そういわないで、助けると思って、一泊してくださいよ」
 冒険者は無傷でしかも疲労感もなかった。
「今からなら夜中になりますよ。次の町までは」
「ああ、そうですねえ」
 冒険者は一泊し、翌日ビレンチの町を立った。
 全く、印象に残らない冒険だった。
 
   了


2011年3月2日

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