小説 川崎サイト

 

ライター

川崎ゆきお



「またつかないなあ」
 児玉はたばこに火をつけようとするが、なかなかつかない。
 透けて見える油の残りを見るが、三分の一以上残っている。
「スカか」
 買ってまだ数回しかつけていない。火加減を調整するダイヤルを回しても、同じだ。
 ジョキジョキと、空振りを繰り返す。
 親指の指紋がなくなりそうだ。
 児玉は鞄からもう一つライターを取り出す。四つで百円だった。
 そちらはついた。
「アタリだ」
 安いライターはつきが悪い。しかし、ふつうの値段のライターでも同じことがあった。この場合、一つ失敗すると、それで終わりだ。
 ところが同じ値段で四つ入りはスカもあるがアタリも入っている。
 その前は三つ入りを買っていた。やはりスカがある。
 その前は二つ入りを買っていた。スカは減るはずだが、二つしかない。
 児玉なりの経験から、四つ入りが一番安定していると結論を下し、最近はそればかり買っている。
 そして、いつも鞄のポケットにライターをいくつも入れている。
 スカだと思ったライターも、しばらく立ってからつけると、つくことがある。だから、油が残っている限り捨てない。
 一つがだめでも、あと三つある。順番につければ、必ずどれかがつく。
 個体の欠陥を数で解決する作戦だ。
 四つのライターの中で、やはりどうやってもつかないのがある。それは見切るしかない。それで捨てる。
 と、いうことを友人に話した。
「色で見分けるの?」
「いや、ライターの色は覚えていないので、偶然取り出したライターとの勝負なんだ」
「それって、面白いの?」
「いや、面白くはないけど、一発でつくと気持ちがいい」
「じゃ、つかないと気分悪いだけだろ。だから、安いライターを使うことがだめなんだよ」
「いや、つかなかった不快感より、ついたときの方の快感が、実にいいんだ」
「あ、そう」
 
   了


2011年3月12日

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