小説 川崎サイト



猫の墓場

川崎ゆきお



 小学校の遠足で弁当の時間になった。
 真美夫が心配していた時間だった。
「みんな好きな場所で食べなさい。遠くに行っちゃだめよ。川岸から出ることは禁止よ」
 他のクラスの生徒もそれぞれ散った。
 真美夫は挙動不審者のように、キョロキョロ辺りを見渡しながら、人のいない場所を探した。一緒に食べるグループがいないのだ。
 食べる場所が狭ければクラスがひと塊になって座るだろう。しかし河原は広すぎた。
 女先生を取り囲むように、数人が座を決めた。
 真美夫はそこに入るメンバーではないことを知っている。
 三人や四人のグループが、その近くで弁当を広げた。
 男子の一グループが岩の上で弁当を広げた。一緒に遊ぶことがあるので、仲間に入れないわけではないが、岩の上が狭すぎた。
 女子のグループに入るわけにはいかない。
 真美夫はさ迷った。
 佳代という女の子がいる。いつも仲間外れなのだが、それが定着し、ある意味で安定していた。
 佳代は案の定一人だ。こういう状況に慣れているのか、人のいない場所へ向かっている。
 老いて死期が近付いた猫が、人知れぬ場所へ行くように、佳代も姿を消すのだろう。
 真美夫はみんなと一緒によく遊んだし、話もよくする。しかし、特に仲のよい相手がいるわけではない。
 近所に住む俊は、一緒に帰る仲だが、女先生グループにうまく紛れ込んでいる。
 真美夫は一人で弁当を食べるのは苦ではない。しかし、それを見られるのが嫌だ。
 五分経過した。
 殆ど座り始めている。
 真美夫も立ったままではおかしい。しかし、中途半端な場所で弁当を開けるのは避けたい。
 まだ何人かは場所を探している。その生徒達が座る前に、どこかに隠れないと危なくなる。
 真美夫は佳代が向かった足場の悪い河原の奥へ向かった。猫の墓場へ逃げ込むしかなかったのだ。
 佳代は気性が荒く、男子ともケンカし、爪で引っ掻いて怪我をさせたこともある。
 その佳代が一人で弁当を食べていた。誰からも見られることのない岩陰の絶好の場所だった。
 真美夫は、その近くに座った。
 佳代は真美夫の存在を無視して食べていた。
 真美夫も巻き鮨を齧った。
 
   了
 





          2006年6月25日
 

 

 

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