小説 川崎サイト

 

ドアの多い家

川崎ゆきお



 ドアの多い家だった。
 奇人が改築したものと思われる。
 二階建てのよくあるような建て売り住宅で、持ち主が設計を頼んでたてたものではない。
 余地のような庭が母屋を取り囲み、一応一戸建てだ。築三十年にはなるだろうか。
 奇人が売りに出ていたその物件を買っている。ドアの多い家になったのはそれからだ。
 玄関にドアがあり、その横に車のガレージがある。シャッターなどで閉めるタイプではなく、母屋に穴を開けているような感じだ。そこに四枚のドアを取り付けた。どのドアを開けてもガレージだ。奇人は車を持っていないので、自転車が数台入っている。どうして四枚もドアが必要なのかはわからない。
 奇人にいわせれば、一台につき一つのドアのようだ。つまり四台とも専用の出入り口を持っていることになる。これに何か意味があるのかどうかは、奇人だけが知っている。意味を見いだしている。
 競馬の馬が出ていくゲートを模しているのではないかと考えられるが、馬のように飛び出しを制止させる必要はない。また、ガレージの中には仕切はない。
 奇人が思い描いているのは、何かの基地だろう。だが、それが単なる自転車だ。ママチャリが二台。細いタイヤとごつごつの太いタイヤのが二台。だが、奇人はほとんど一号車と呼んでいるアップハンドルの買い物自転車ばかり乗っている。細いタイヤの自転車は放置しすぎて空気が抜けている。
 家の裏に回ると畳一枚半ほどの庭がある。そこはふつうのアルミサッシのガラス戸がはまっている。問題は隣家に面した家の側面だ。五十センチほどの幅の余地がある。その壁にドアがある。勝手口は別にある。ドアは二枚並んでおり、一枚はダミーで開かないが、もう一枚は壁を壊してドアにしたものだ。内側からそのドアをみると非常口と書かれている。当然常夜灯がついている。その部屋は八畳ほどのリビングだ。
 当然部屋の中に、意味のないドアが張り付けてある。中には壁に取ってだけつけたものもある。これは壁なので、ドアとは呼べないが、引けば開くかもしれない。だが、その向こうは屋外だ。
 ドアだけではなく、襖もある。壁に襖の枠と引き手だけ取り付けたものだ。和室には押入があり、それは襖だ。それとは別に、壁に襖が仕掛けられているのだ。
 さらに困ったことにダミーの階段がある。天井で終わっているのだ。天板に仕掛けがあり、開くのかと思うと、そうではない。これは、明らかに階段ではないとわかってしまう。奇人はそれをタンスだといっている。階段のように見えるが、実は棚なのだ。しかし、どう見ても階段で、手すりまである。
 奇人のやることはわからない。
 だが、奇人もよくわかって、そして深く考えてそういうことをしているわけではないようだ。誰も文句を言う人がいないので、遊んでいるだけなのだろう。
 住を楽しむんでいるわけだ。
 
   了


2011年4月13日

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