小説 川崎サイト

 

永劫回避

川崎ゆきお



 小川は食後必ず散歩にでる。食べた後、眠くなることがある。その頻度は多くない。
 それが起こるのは食べる前に空腹すぎたときだ。必ずしもそれだけが原因ではないが、当てはまることが多い。
 その日は眠くならなかった。実はそちらの方が多い。
 食後の散歩は運動することで、胸焼けを押さえるためだった。
 しかし、小川は食後必ず胸焼けを起こすわけでもなく、眠くなるわけでもない。
 また、眠くなったときも散歩に出る。これは眠気を散らすためだ。散歩中は眠くない。だが、戻ってくると睡魔に襲われ、バタンと横になることが多い。これも毎回そうなのではない。
 小川はなぜ自分は食後散歩に出るのかを考えた。いつもなら、そんなことは考えない。散歩中に散歩の理由など考えないものだ。散歩に行く前なら、散歩について考えるかもしれないが。
 そして得た結論は、どうも癖とか習慣のようだ。癖とは散歩癖のことだ。これは、体調とは関係ない。何となく部屋にいないで外に出るのだ。内部ではなく外部に出ることが好きなのだが、外向的な性格ではない。散歩そのものが実は部屋の延長なのだ。外に出ているが、内にこもっているのと近い。外向け性癖とは、その多くは対人関係を指す。だが、小川の散歩は一人旅で、室内をうろうろしているのに近い。
 いずれの理由がふさわしいのかはわからないが、小川は今日も食後、外に出た。
 生活習慣になっている。生活習慣病があるように、生活習慣散歩があるのだ。
 部屋にいても見るものは同じだ。部屋の模様替えでもすれば別だが、それでも変わり映えしない風景だ。室内の眺めを風景というのはおかしい。
 風景はやはり屋外での景色だろう。景色の色とは、自然の色目だろう。木や草花や空の色だ。
 そして、風景の風は、風が吹いていることからして、やはり屋外だ。
 小川は今日も日常風景を日常的に眺めながら、胸焼けと眠気からの回避を続けている。
 
   了


2011年4月18日

小説 川崎サイト