小説 川崎サイト

 

ノーマ文化

川崎ゆきお



「ノーマという町がある」
「特別な町ですか?」
「ノーマ地方のノーマだ」
「じゃ、結構広い一帯なんですね」
「ノーマはその中にある町だ」
「それが何か」
「ノーマには特別な文化があり、今もそれが生きておる」
「文化ですか」
「そうだ、昔からあるノーマ地方の文化だ」
「コンビニとか、牛丼屋はありますか」
「ない」
「じゃ、田舎の村落ですか」
「大学もあるし、教会もある」
「地方大学ですか。でもそれは結構規模がありますよ。学生も生活するし、人の出入りも多いでしょ。朝夕だけしかバスが通っていないよう町だと無理でしょ」
「大学は分室のようなものでな。山岳科だ」
「山岳部じゃないのですか」
「いや、クラブ活動ではない。神学部山岳科だ」
「わかりました。山岳信仰に関する教室のようなものですね」
「そうだ。理解できたかね」
「すると、ノーマ地方に残る山岳信仰を研究する場所なんですね」
「山岳信仰を含めてのノーマ文化の研究室だ」
「研究室は大学院のレベルじゃないのですか」
「そうだ」
「すると、大学生ではなく、院生が通う場所なんですね」
「そうそう」
「それで、ノーマ文化とはなんですか」
「それがよくわからん文化でね。先住民の文化で、石の文化なんだ。ノーマ地方の山々はほとんどが花崗岩だ。そして、山の至る所に妙な文字が岩に刻まれておる」
「どこかで聞いたことがあります」
「そうだろ。いろいろなところに、似たような文化がある。ただ、ノーマ地方の古代文字は、誰もまだ解読していない」
「それだけのことで大学院が学科まで作って調べているのですか」
「先住民の子孫が、ノーマの文化を守っておる」
「どんな文化ですか」
「天狗だ」
「ああ」
「どうした」
「その大学、インチキ臭くありませんか」
「私学をバカにするのか」
「だって、天狗を研究しているのでしょ」
「ノーマ文化の中に天狗も登場する程度だ。別に天狗の研究をしておるわけでない。まあ、やっても、別におかしくはないがね」
「つまり、岩に刻まれた古代文字は天狗が刻んだものだと言うことですね」
「それを天狗文字の研究と題しておる」
「天狗って、あの天狗でしょ。人じゃなく」
「天狗とは何かと言う問題だけでも、多くの説がある。天狗と呼ばれる何かがあったわけだが」
「でも山岳信仰の話は面白そうですねえ」
「そうだろ。それと人がどう関わってきたかの研究で、人はなぜ天狗を発明したかだ」
 村田はうたた寝しながら、先生の顔を見ていた。
 鼻が高く、天狗のように見えたため、そんな夢を見たのだろう。ノーマ地方もノーマ文化も夢の中で出てきた名前だ。
 村田の知識の中にノーマという地名はない。
 鼻の高い先生は経済学部の教授で、古代文明とは関係がない。
 村田はノーマという言葉に記憶はないが、それに近い語呂の言葉から変化したのではないかと思った。
 もし、そんな研究室があるのなら、行ってみたいところだ。
 授業後、図書館によって天狗の本でも読もうかと思った。
 
   了


2011年5月2日

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