小説 川崎サイト

 

ノートパソコン

川崎ゆきお



 吉田は喫茶店でノートパソコンを開けている。いかにもビジネスマンといった感じのスーツ姿だ。パソコンモニターとケータイを交互に見ながら、何かをチェックしている。時刻表示を合わせているのだ。分単位ではなく秒単位で合わせようとしているのだが、うまくいかないようだ。
 ビジネスバックは本革で、重役クラスが使う代物だ。しかし、ノートパソコンを入れるにはそれ程機能はよくない。重要な書類を入れるような感じの鞄なので、小賢しい作りではない。つまりポケットが多くて機能的な仕掛けではないのだ。しかもショルダーがない。
 吉田はそのことも気になっているが、本当に気にしないといけないのは就職先を探すことだ。
 時刻合わせを諦め、今度はワープロの環境設定に戻った。今まで出ていたボタン類が消えているのだ。弾みで何かを押したのだろう。それで消えた。そこにはフォントサイズなどが表示される窓があった。その列が消えているのだ。
「また仕事が増えるなあ」
 それを表示させるためにオプション画面を開こうとしたが、どこから入るのかを忘れた。また、表示というメニューがあるので、それを開けたが、消えたボタン列の項目がない。
「今日は一日これで終わるか」
 特技とは言えないものの、ワープロと表計算ソフトは使えると履歴書に書いている。マニュアルさえあれば使えるのだろうが、細かいことは分からない。今困っている消えたボタン列に関しても、ヘルプを見れば解決するかもしれない。しかし、症状はあるが、病名が分からない。だから、ヘルプ内をうろうろすることになるのは目に見えている。
 昨日はメールの設定が上手くいかず、接続できなかった。メールサーバーがどうのと言うところや、アカウントでつまった。何をカウントするのだろうかと考えてしまった。設定方法はよく読んだのだが、全角文字を使っていた。それは解決したのだが、妙なところにチェックマークを入れたようで、それが邪魔している可能性が高い。
 メーラーの設定はそのまま放置している。
 そして、次の日も喫茶店でノートパソコンを開き、環境設定に励むことになる。仕事と言えば、これぞ仕事なのだ……。

   了

 


2011年7月2日

小説 川崎サイト