小説 川崎サイト



ファミリー外

川崎ゆきお



 六十は過ぎているが老婆ではない。そういう一人客が深夜のファミレスに連日姿を現す。妖怪変化ではないのは確かだが、何かが変化したことは確かなようだ。
 二時を過ぎるとさすがに若い客しかいない。カップルや三人四人客がしめるなか、初老の婦人客は妙だ。変だと思うものの、なかにそういう客が混ざっていても、異常というほどではない。
 その婦人は朝までいるようなので、ホームレスかもしれない。紙袋を持ち歩いていることが証拠だ。
 その中にはアウトドアで必要な品々が入っているようで、時々取り出しては整理している。
 二十四時間営業のファミレスに住み着いたホームレスの話があったが、この店は朝の五時で閉まる。従って、朝までの居場所なのだ。
 では、この婦人はどこで眠るのだろうか。
 女ホームレスの寝床がこの町にあるとの噂もある。取り壊し前の公団住宅や、放置同然のテナントなどだ。
 公園で眠っている女ホームレスは少ない。いないかもしれない。さすがにそこは女性で、屋外で人に寝姿を見せたくないのだろう。
 それで共同の寝所があるらしい。数人の女ホームレスが共同で使っているが、共同生活ではない。
 彼女達がどんな理由でドロップアウトしたのかは分からないが、浮浪者は男だけではないのも確かだ。
 さて、その婦人だがファミレスでお茶を飲むだけの現金を持っているし、来店出来るだけの衣服も持っている。
 まだそこに座れることで、満更ではないようだ。
 家に居た頃は奥様であったり、キャリアウーマンだったのかもしれない。
 その婦人はぼさぼさの髪の毛だが、背筋を伸ばしてじっと瞑想している。紙袋内の整理が終わったのか行者のように動かなくなった。
 この姿勢のまま朝までいるようだ。
 そこへ肌を露出させた女が数人入ってきた。乳首が見えそうなほど胸が開いている。それはおしゃれではなく、衣装なのだ。早口で喋りあっているが日本語ではない。彼女らの働く店が終わったのだろう。
 ファミリーレストランも二時三時を過ぎるとファミリー外の客が混ざり込むようだ。
 そう語る男も、今夜帰る家がない。
 
   了
 




          2006年6月30日
 

 

 

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