小説 川崎サイト

 

アカデミック

川崎ゆきお



 評価されていないが、実際によく使われ、実用性の高いものがある。逆に高く評価されているが、ほとんど使われいないものがある。
「君はどちらかなあ」
「僕は評価されているほうがいいよ」
「でも、あまり使われいないんだよ。需要がないってことだ」
「でも、評価が高いのでしょ。自慢できるじゃないですか」
「でも、よく知られていない。人気がないってことだよ。または、触れる機会がほとんどないってことだ」
「マニアの間で高い評価を得て、という展開でしょうか」
「逆にそれはアカデミックな世界じゃないかな」
「え、どういう意味ですか」
「君は絵画を見るかね」
「見ません」
「美術館へは?」
「イラスト展なら行きますが、絵画の展覧会へは行きません。有名なのが来たら行くかもしれませんが」
「じゃ、日本の画家では行かないのかね」
「行かないと言うより、よく知らないのです」
「それこそ評価は高いが、ほとんどの人は知らない世界だ」
「でも、アカデミックな世界なんでしょ。メジャーな世界なんでしょ」
「ところが絵画なんて、普段は目にしない。君の家に絵画は飾ってあるかね」
「ポスターや写真はあります」
「そうだろ。本物の絵画は高い。世の中に一枚しかない絵だからね。安いのなら買えるが、大した絵じゃないだろう。だから、ますます絵を見なくなる」
「テレビは動く絵でしょ。その絵なら、毎日たくさん見ていますよ」
「あれは、書かれたものじゃない」
「じゃ、僕が選択したのは、評価はされていないが、実用性の高い絵のほうなんですね」
「そういうことだ。評価されている絵は、怖い話だが、誰も見ていないんだよ」
「誰か見ているでしょ」
「だから、そういったアカデミックなものほど、最近はマニアックな世界になっているんだよ」
「で、どうすればいいのです」
「君は評価されたいのでしょ」
「それは誰でもでしょ。でも、別に評価されなくてもいいような気もします。誰も見てくれないのなら」
 
   了
 


2011年8月25日

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