小説 川崎サイト

 

地球防衛軍

川崎ゆきお



 夜の町内での話だ。
 妙な青年が徘徊している。
 町内老人会員大島は町内パトロールの役も務めている。
 大島が不審者を発見したのは偶然だが、深夜の一時過ぎにパトロールをしていたわけではない。これはプライベートな外出で、夜中の散歩をやる癖が大島にはある。
 徘徊中の妙な異変は、見るからに妙な服装をしていた。何かの制服のようだ。大島は最初それを仮面ライダーではないかと思った。
「あのう」大島は話しかけた。
 青年は敬礼した。
「どちら様でしょうか」
「地球防衛軍です」
 当然聞き取れなかった。
「えっ?」
「地球防衛軍の者です。今、この町内のこの路地をパトロール中です」
「あ、はい」大島は、どう返答していいものか、対応に困った。
「国連軍のことですかな」
「多国籍軍ですが、国連とは別の組織です」
「聞いたことのない組織ですが」大島は、相手のペースにはまってしまいそうになった。話を合わせようとしているのだが、相手に話す機会、喋らせる機会を与えてしまう。その結果、地球防衛軍が既成の言葉としてあたかも存在することを前提とした対話になる。それを心配した。
「それで、何をなさっておられるのですかな」
「パトロールです」
「それはそれは、この夜中ご苦労様です」つい、いつもの挨拶をやってしまう。だが、老人会の町内パトロールは夜中はやらない。
「何かありましたか」大島が聞く。
「何かが起こらないようにパトロールしているのです」
 大島たち老人会がやっている見回りと、同じ事を、この青年はやっているのだろうか。しかし、一人でやるのは考えにくい。
「地球規模と言うことは、宇宙人の来襲を警戒してのことでしょうか」大島は相手が一番喜びそうな質問をした。それが当たったのか青年の顔が緩んだ。にこやかな顔になったのだ。
「そうです」
「お一人でですか」
「はい、隊を組むと目立ちますから」
 だが、仮面ライダーのような服装は、一人でも十分目立つ。
「何星人が攻めてくるのでしょうか」
「それは分かりません。しかし、警戒を怠ると、取り返しの付かないことになります。だから、非常に地味な活動ですが、こうしてパトロールしているのです」
「主にどういうところを?」
「敵の痕跡を調べていなす」
「それって、宇宙人が来ていると言うことですかな」
「それは分かりません。古代にも宇宙人は来ていました」
 大島はだいたいの様子が分かった。
 夜中の路地裏で、立ち話をしているため、声が届くのか、便所の窓から人がが覗いている。その便所は、高橋さんの家で、年寄り夫婦と孫が住んでいる。きっと覗いているのは中学生の孫だろう。
 その横の家の二階の明かりが付く。ここは橋爪さんのお宅で、二階は、ご主人の寝室だ。声がするので、起きてきたのだろうか。しかし、すぐに電気は消えた。
 大島は対応に苦慮した。その青年は町内では見かけない。だから、他から入り込んだのだ。完璧な不審者だ。
「明日は、もう来ないですねえ」大島は希望を言ってしまった。
「はい、今夜のパトロールで、切り上げます」
 大島はほっとした。
 これ以上青年と話していると、逆に騒ぎになると思い、大島は帰ることにした。
 次の夜。大島はいつものように深夜の散歩に出たが、地球防衛軍の姿はなかった。
 
   了
   
   


2011年10月19日

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