小説 川崎サイト



召喚

川崎ゆきお



 洋館が並ぶ町並みが観光地となって久しい。
 吉沢は久しぶりにそこを訪れた。駅から続く繁華街が果てる場所にあったのだが、今は同じ色彩の中にある。観光地化が進み、繁華街と同じ雰囲気となっている。
 どの洋館の前にも客引きが立っているのも風俗街と同じ色合いだ。
 夕闇が迫りはじめていた。洋館通りを彩るイルミネーションもどことなくネオン街の喧噪さと同色だ。
 その中を吉沢は一枚のチケットを手に歩いている。目的の洋館を探しているのだが、あまり有名ではないらしく、案内板にも載っていない。
 洋館の殆どは入場料を取っていた。見学料だが、邸内には現金を落としてもらおうと、雑貨や土産物が露骨に並んでいる。
 そういう洋館の客引きには聞きにくい。ライバル館を教えたがらないだろうし、吉沢も聞くつもりはない。
 番地を頼りにやっとそれらしい洋館を見付けた。周囲は鬱蒼とした樹木に取り囲まれ、レンガ塀もところどころ欠け落ちている。
 鉄の門は閉じられており、周囲も暗い。
 吉沢は場所を間違えたのかと思った。チケットを出すような建物ではない。
 よく考えると、この界隈の洋館は元々人が住んでおり、観光客用に開放されているのは一部なのだ。それがいつの間にか次々と開放され、やがてレストランになったり、雑貨屋になっていった。今でも普通に住んでいる家もあるはずだ。
 吉沢が持っているチケットはある趣味の集いだった。その場所がこの薄暗い洋館なのだ。
 吉沢はブザーを押してみた。すると玄関に明かりがつき、薄汚れた小男が門を開けた。
 吉沢はチケットを見せた。小男はペンライトで確認した。
 趣味の集いは地下室で行われていた。
 吉沢は五万円でチケットを買っている。だから客なのだ。
 吉沢と同じような服装の中年男が何人か座っている。地下室は六畳の間二つほどの広さで、壁を背に円を書くように椅子が並んでいた。中央部には円陣が書かれている。召喚イベントなのだ。
 黒頭巾の男達が呪文を唱え始め、ローソクの炎がその息で揺らいでいる。
 やがてローソクが吹き消され、暗闇となり、再び火が入ると、円陣の中に半裸の女が立っていた。
「二万円からお願いします」
 小男が作り声で言う。
 一人の男が二万二千円と値をつけた。
 吉沢は財布の中の万札を数え始めた。
 
   了
 



          2006年7月5日
 

 

 

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