五感内
川崎ゆきお
シックスセンス。第六感のことだ。
それを研究している上田教授はテレビでコメントを求められた。
「しまった」
一週間後に放送されたその画面を見て、教授は後悔した。
ほんの数分で、一言二言喋っただけだ。リハーサルも含み、三回ほど同じことを喋った。
言葉に詰まったわけではない。なめらかに喋っている。それもそっくり同じことを同じ語り口で。だから、三回も喋る必要はなかったはずだ。
バラエティー番組とはいえ、全国放送であり、教え子も見ている。ちょっとした有名人になれるのだ。それで、緊張したが、思ったよりうまく喋れた。しかし、上田は「しまった」と感じた。
この感じはシックスセンスなのではない。誰が見ても見える世界で、超感覚ではない。しかし、どれだけの人間がそれを見ただろうか。
上田は録画しており、それを三回目に見たとき、やっと気づいた。三回の見直しで、気づいたのだから、一度見ただけでわかる人の確率は低くない。それを考えると上田教授はぞっとする。
明日学校へ行けば、そのことを噂する学生がいるかもしれない。しかし、それは大したことではないのだ。騒がれるよう内容ではない。大きなトラブルではないためだ。
今度インタビューを受けるときは、別の場所にしよう。研究室の部屋でやってもらおう。そう決心した。ただ、校内にテレビ関係者を入れると目立つ。それを考えると、この決心も揺らぐ。
書斎がまずかったのだ。
映像では上田教授の背景は本棚になっている。余計なものを入れたくないので、本棚だけが背景にくるように頼んだ。書斎といっても日用品や、プライベートなのが置かれているためだ。そういうのは写されたくなかったのだ。
問題は本の背表紙なのだ。
「誰でも出来る初心者スピーチ」「スムースに話せる方法」
そのタイトルが、映っていたのだ。
了
2011年11月29日