小説 川崎サイト

 

韻が飛ぶ

川崎ゆきお



 空想癖というか、妄想に近いことを考えている島田という男の話だ。
 京都にキングギドラが出るらしい。出ると言うより、飛ぶらしい。
 キングドラゴンとは八岐大蛇のような怪獣で、首が八つある。これが、京都盆地の上空に飛んでいるらしい。
 季節は送り火の頃、つまりお盆が終わる夏。盆を過ぎれば蒸し暑い京都市街も少しはましになる。
 五山の送り火は大文字山で有名だ。五山の中の一つが大文字山で、「大」という文字が燃える。
 キングドラゴンと五山の送り火とは関係はない。この年中行事が終わる頃、キングドラゴンが飛びらしい。
 多少関係があるとすれば、山を見る機会があることだ。少しでも高いところから、山を見ないと、ビルの影で送り火が見えないためだ。
 山を見るとは空を見るのに近い。空も見てしまうからだ。つまり、前日まで空を見ていた癖が残っている。もう見なくてもいいので、強引な言い方だが。
 島田の空想も、その程度の淡く薄い根拠でしかない。妄想の場合、因果関係はない。いきなり言い出す。だが、少しは関連性があるため、良心的だろう。
 ところが、話の続きを聞いていると、数がすごいらしい。キングギドラが無数に飛んでいるのだ。
 首が八つあるモンスターが飛んでいるだけでも大変なのに、無数だという。
 数え切れないほどの数で、大群なのだ。そんなものが京都市街の上空を飛べば、空が見えなくなるだろう。
 ところがそうではなく、よく見ないと分からないらしい。見学場所は四条大橋でも山上大橋でもかまわないらしい。山と違い、上を見ればいいのだから、どこでもいいようなものだが、よく見えるのは鴨川の上空で、三条と四条の間らしい。
 島田が見たのは四条大橋からで、三条大橋方面を見ると、飛んでいるのが見えたらしい。
 要するに、小さいのだ。キングドラゴンというので怪獣を連想したが、実は虫なのだ。羽虫だ。
 しかし、頭が八つある羽虫など存在しない。だから、島田の作り話だ。
 それを聞いた宝田という男は、カマキリの子供ではないかと思ったようだ。しかし、頭が八つは説明できない。
 島田が勝手に思いついた想像上のキングドラゴンなので、その真相は島田という男の精神内で起こっていることと繋がりがある。なぜ、虫のような小さなキングドラゴンが大群で飛んでいるかだ。
 もうひとつ考えられることは、島田が無茶苦茶な作り話をしたことだ。この場合、島田から発せられた因果ではなく、本当に適当に言ったとすれば、精神内部との繋がりもこじつけになる。
 確かに言葉の連想ゲームで、何かを表す言葉だったとしても、言葉の語呂だけで、韻を踏んでいるだけのことかもしれない。
 韻を踏む。この場合、キングドラゴンなので、韻が飛ぶとでも言うべきか。
 
   了


2011年12月1日

小説 川崎サイト