小説 川崎サイト

 

ストレス性胃炎

川崎ゆきお



 上田は胃がキリキリするが、激痛ではないので、買い物には行ける。数日分の食料を買い出しに行くためだ。まとめ買いをするほど冷蔵庫は大きくない。だから、半週間分だろうか。
 自転車に乗ると、胃のキリキリ感は緩和した。じっとしているよりも楽だ。気が紛れるのだろう。
 胃腸の持病はない。以前は慢性の下痢が続いたことはあるが、数年前に治っている。そのときも胃はキリキリしなかった。
「ドラマか」
 思い当たるのはそれだ。
 非常に我慢が必要な連続ドラマを見ていたのだ。海外の中編ドラマで、主人公が追い込まれ、苦しい状態が何話も続いている。
「ストレス性胃炎」
 まずそちらを原因としたが、駄菓子を食べ過ぎたことも気になる。それを食べながら、ずっとドラマを見ていたのだ。
 我慢劇が続くので、いらいらしていた。そして主人公が可哀想なので、食欲がない。ご飯が食べられないので、駄菓子をかじっていたのだ。そのため、口の中がおかしくなった。
 塩っぽいものを食べすぎ、舌が荒れた。その後大福餅を食べた。辛い物と甘い物を交互に食べていた。大福餅は安物で、しかも賞味期限間近だった。
 食べ物が原因かもしれない。さらにカップラーメンや焼きそばもよく食べた。きっちりとした食事ではない。コンビニ弁当も半分しか食べられない。
「両方かもしれない」
 食事とストレス。両面から来ていると判断した。
 やはり、きっちりとした食事をしないといけないと思うのだが、食欲不振で買う気がしない。
 薬局の前で自転車を止めた。胃腸薬を買うつもりだ。
「これは適切な方法ではない」
 原因がはっきりしている。それにキリキリするが、我慢出来ないほどではない。
 そして、スーパーへ向かった。
 そして、レトルトのお粥や缶詰を買い込んだ。
「お粥は正解かもしれない」
 部屋に戻り、ドラマの続きを観た。
 展開が変わり、主人公が反撃に出た。非常に痛快だった。そして、大きなカタルシスを得た。
 胃のキリキリは嘘のように治り、食欲も出た。
「お粥は失敗だった」
 と、思うほど腹がすいていた。
 上田は、レトルトのお粥を五袋分食べ、鍋焼きうどんのアルミ鍋をも食べきり、さらにカステラにも手を出した。
 今度は食べ過ぎて、胃がむかむかした。
 馬鹿な話だ。
 
   了


2011年12月16日

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