小説 川崎サイト

 

老人の未来

川崎ゆきお



 今日は今日とてやることがない。昨日もそんな状態だった。しかし、一日は過ぎ、何もやらなくても無事一日を終えた。退屈で仕方がないわけではない。テレビを見ていると、何となくではあるが、時は過ごせる。それに飽きることもあるが、他にすることがなければ、見続けるだろう。だから、面白い番組を見つけることが肝要である。
 だが、本来の目的が、そう言うことで解決するとは思えない。では、本来とは何か。目的とは何か。それがあるから、やることが出来ないのだ。そのため、目的を変えるのがいい。
 ライフスタイル。ライフワーク。このあたりを修正すればいいのだ。私はもう年を取り、将来という、そのものに達している。だから、老後の楽しみである、その老後に今いる。老後のさらに老後を考えるにしても、それは下り坂の下り方の話になる。社会に対し、何かをなすような未来は私にはもうない。
「これが遺書ですか」
 高橋はある老人のブログを見ながら、依頼者の家族に問う。
「遺書にあたるかもしれません。消えたのです。家出をしたのです」
「で、探してくれと」
「はい」
「手がかりはこれだけですか」
「タンスの底に隠していた現金がなくなっています」
「隠しきれなかったのですね」
「はい、知ってました」
「他になくなったものは?」
「旅行鞄とパソコンです。タブレットと呼んでました。キーボードのないパソコンだと」
「では、そのブログに更新があるかもしれません」
「そのタブレット端末。ネットは出来るのですか」
「家では、それでホームページを見ていました。無線LANです」
「おじいさんが持ち出したタブレットは、外でもネットが出来るのですか」
「出来ると言ってました。だから、喫茶店でも公園でもネットが見られると自慢していました」
「WiMAXですね」
「それはよく知りませんが」
「端末の電源コードなどは残っていますか」
「ないと思います」
「じゃ、どこかで充電できますねえ」
「あのう」
「何ですか」
「そういう相談ではないのですが」
「え、どういう」
「だから、端末やネットの話ではなく、未来のないおじいさんの行方です」
「おそらく大丈夫でしょ。ちょいと旅行にでも出たのでしょ」
 探偵はスマートフォンでお爺さんのブログを覗いている。
「ほら、コメントが入ってますよ。お爺さんの読者じゃないですか」
「はあ」
「お爺さんはフェースブックやツイッターはやっていましたか」
「そこまで知りません」
「ブログをやっている人は、ツイッターやフェースブック、ミクシーやグーグルプラスなんかもやっている可能性が高いのです」
「ですから、そういう話じゃなく」
「大きな手がかりを得られるかもしれませんよ。まあ、そのうち、お爺さんの更新があるはずです。それを待ちましょう」
「あのう」
「何ですか」
「ケータイに電話すれば早いかも」
「どうして、先にそれをしないのです」
「あ、怖くて」
 探偵はお爺さんのケータイ番号を教えてもらい、電話した。
 すると、お爺さんと連絡がついた。
「以上で、解決です」
「あ、そんなものですか」
「電話が一番早いですよ。ネットより、電話が」
「ああ、まあ、そうですねえ」
 
   了
   


2011年12月23日

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