小説 川崎サイト

 

サイコロキャラメル

川崎ゆきお



 紙のサイコロだ。
 夢の中で高田は振っている。次に振ったときは軽くなっている。
 そして、妙な転がり方をした。
 次に振ったときはさらに軽くなっており、からからと転がった。
 高田は甘いものが口の中にあることを知った。これで二個目だ。
 何かを二回食べたことになる。
 すぐにそれが何であるか気付いた。キャラメルなのだ。しかも通常より大きな粒だ。サイコロに二個、キャラメルが入っていたのだ。
 サイコロキャラメル。
 一体どうしてこんな夢を見たのだろう。
 昼間、キャラメルやサイコロのようなものを見たのだろうか。しかし、思い出せない。サイコロキャラメルが何を象徴しているかだ。寝起きしばらくそれを考えていたが、思い出せない。
 昼過ぎになると、もうその夢のことなど忘れていた。
 しかし、テーブルの上に置かれた正方形の箱を見て、やっとサイコロキャラメルとの繋がりが分かった。
 正方形の箱はマグカップのパッケージだった。サイコロキャラメルよりは大きいが、箱の開け方が似ていた。
 高田はマグカップを景品でもらっていた。行きつけの喫茶店が月に一度ほど、サービスでくれるのだ。皿の場合もある。その喫茶店は大きなチェーン店で、そのログマークが皿やマグカップに入っているはずだ。
 月に一度と言っても、特定の日に限られる。毎日通っていれば、その日にも遭遇するはずなので、景品がもらえる。今まで三回もらっている。四年ほど通っているが、毎日ではない。週に二度か三度行く程度だ。景品日があることは知っていたが、それがいつなのかまでは知らない。マグカップも、コーヒーカップも、皿も、小物鉢もいらないからだ。
 テーブルに置かれている四角い箱は、昨日もらったものだ。
 開けていない。どうせ使わないのだから、キッチンの隅っこに捨てるつもりだ。ゴミ箱ではないのは、使う可能性もある。マグカップは何個があるが、汚れて使えなくなったのもある。だから、そのうち使うかもしれない。
 箱の中身がマグカップであることは、喫茶店でもらうとき、レジにサンプルが置かれていたので知っている。だから、開けなくても分かるのだ。
 マグカップとサイコロキャラメルはどう関係するのだろう。
 高田は考えたが、これという答えはない。わざわざ夢の中に出てきたのだから、それなりに意味があるはずだ。夢が自分の精神内の何かを知らせようとしているはずだ。
 しかし、結びつきが分からないのなら、お知らせも無駄に終わる。
 サイコロはギャンブルで使う。喫茶店の景品はギャンブルではないが、ギャンブルと景品は繋がりがある。くじを引いて、景品をもらう。パチンコ玉で景品をもらえる。
 そして、喫茶店で景品をもらえるのだが、それは偶然だ。決して賭ではないが、もらえない月のほうが多い。四年通って三つだ。しかし、これは確率だけの話で、ギャンブルではない。
 キャラメルは喫茶店と関係する。
 そこまで考えたとき、これはどう見てもこじつけだ。サイコロキャラメルは、別のものを指しているに違いない。ああなるほどとぴたりと決まらないためだ。関係性作りが強引なのだ。
 高田は景品の箱を開けてみた。
 すると、やはりマグカップが入っていた。そしてロゴも。
 だが、そのマグカップに絵模様が入っていた。キャラメルの。
 高田はどきっとした。自分にはこういう能力があるのかと。
 しかし、高田はマグカップにキャラメルの絵が書かれていることを、実は知っていたのだ。透視術ではない。
 レジでサンプルを見ているのだ。さっと見た程度だが、キャラメルの絵模様を知らないうちに記憶していた可能性がある。さほど興味のないマグカップなのだが、見るには見たのだ。
 ここで、ぴたりと決まったのだが、ではサイコロキャラメルとマグカップの関係性から何を引き出すのかとなると、有意なののはやはり出てこなかった。
 記憶したつもりのないものが記憶されていますよ。という程度の夢のお告げかもしれない。
 
   了



2011年12月28日

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