福岡は届いた封筒を開けた。中に写真が数枚入っていた。
味噌蔵や巨大な味噌樽、そして売り物の味噌の写真。
味噌屋のネットショップを作るための素材写真だ。
「吉田君、スキャンしておいて」
「はい」
福岡は部下に封筒を渡した。
「あれっ」
吉田が妙な声を出す。
「どうした、足りないか?」
「これもアップするんですか」
吉田は一枚の写真を見せた。
福岡は一瞬妙な空気が身体を擦り抜けたような気持ちになる。
「なんだよ、これ」
「マスコットキャラじゃないですか?」
「こんなマスコットはない」
「味噌屋の商標とか?」
「赤ちゃんの写真じゃないか」
「そうですねえ」
男の子が和服を着て写っている。かなり古い白黒写真だが非常に鮮明だ。中判カメラで写したものだろう。同封されている他の写真は普通のサービスサイズでプリントしたものだ。この一枚だけが場違いな場所に紛れ込んでいるように思える。
「座敷わらしのようなもんじゃないですか? 縁起物として、店に飾ってあるんじゃ……」
男の子はふてぶてしい老人のような表情で、こちらを見ている。
「創業者じゃないのかな?」
「赤ちゃんがですか?」
「そうだな。そんなわけないか」
赤ちゃんは羽織り袴で木の椅子に座っている。背景は床の間で、掛け軸も見える。
「相当古いなあ」
「これ、どこに使います?」
「使えんだろ。客が引くよ」
「ですね」
福岡は赤ちゃんをもう一度見る。妙な世界へ引っ張り込まれる気配を感じ、すぐに目を逸らせた。
「うちにもありましたよ、こういう写真」
「わしがこの家で一番偉いと言ってるような写真だなあ」
「着物が怖いんですよ着物が。だから可愛くないんですよ」
「そうだなあ」
福岡は味噌屋へ電話した。この写真は載せられないことを了解してもらうためだ。
「そんなあ」
電話を切ったあと、手にしていた写真を裏返した。
「どうしました?」
「そんな写真送ってないって……」
了
2006年7月14日
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