小説 川崎サイト

 

プレミア指揮剣

川崎ゆきお



 深夜のコンビニ前に、老人と青年達が集まっている。
 青年達は老人のことをマスターとか長老と呼んでいる。マスターであると同時に長老なのだろう。つまり、年老いたマスターだ。
 彼はダイビングマスターで、コンビニ横の路地へのダイビングを指導している。
「西洋人形と日本人形の戦いは悲惨だ。まだ続いておるようだ。そばを通るときは注意するように」
 青年達は真剣な眼差しで聞いている。目が死んでいるか生きているかはよく分からないが、少なくても真摯な態度だ。
「西洋人形はフランス人形で、ドレスを着ている。それがかなり破れておる。日本人形は博多人形で、こちらは大人だ。加藤清正が虎退治で使っていたような長槍を持っておる。これは強い。フランス人形は子供だ。しかし、クロスボウを使う。遠距離からの攻撃を得意としておるが、外すと接近され、博多人形の槍を食らう。この槍の先は分かれており、鋭い刃でフランス人形を撫で斬りにする。決して突かない。目標が小さいためだな。しかし、槍は本来突くもの。だが、この博多人形、槍の扱いを知らん。それが弱点だ。それ故フランス人形は互角に戦えるのだ」
「この先の路地で、本当にそんな戦いがあるのですか」一人の青年が疑う。
「毎晩じゃない。今夜はいないかもしれない。だから、中に入っても人形の姿はない可能性はある」
「はい、了解しました」
「それに、わしらの目的は人形合戦の見学にあらず。路地ダンジョン探索が目的だ。人形が出ても、無視することだ。人形がいることは既に分かっているのだから、これは既成の事実として、もう用済みだ」
「でもマスター。見たいです。人形同士の戦いを」別の青年が嘆願する。
「そのリクエストは無視するとは言わないが、いない場合、見ることはできん」
「はい。了解しました」
 老人はコンビニ敷地内にあるロッカーを開ける。
「武器は好みのものでよい。好きなものを選びなされ」
 青年達は、ロッカールームから手に手に武器をつかみ取る。
「武器は護身用。初心者は決してモンスターに向けてはならぬ。君らの実力では無理だ。戦いは避けよ」
「はい」全員で返事する。
「武器は、そういう重いものを持って走ったりするときの練習だ。ただし、本当に危なくなれば、武器を捨て、逃げよ。武器の代わりはいくらでもあるが、君たちの代わりはいない。分かったな」
「はい」涙目でうなずく女子もいる。
 長老は静に指揮剣を天に突き出す。この指揮剣は市販されておらず、どの武器屋にもない。プレミア+14という、強化の限界まで鍛え上げた一刀だ。老人は路地の最深部で宝箱を見つけ、その中に入っていた伝説の指揮剣なのだ。
 指揮剣の合図で、一ダースほどの青年隊がコンビニ横の路地に入って行った。
「あの爺さん。まだやってるのか、あんなことを」
 コンビニレジの後ろはガラス窓で、隙間から丸見えらしく、店員があきれ顔で見送った。
 
   了

 


2012年1月24日

小説 川崎サイト