小説 川崎サイト

 

ケロンの洞窟

川崎ゆきお



 誰も入ろうとしないケロンの洞窟がある。
 初心者は入り口から一歩踏み込んだだけで、即死だろう。そのモンスターは、ケロンの洞窟で一番弱いとされる、ガルトという蛙の化け物だ。
 中級レベルでもガルトには負ける。
 上級者でも負ける。
 超ベテランなら互角に戦える。
 ケロン洞窟の前は町が出来ている。武器屋がずらりと並び、宿屋も多い。
 ケロン洞窟は山間の突き当たりで、枝分かれした街道の行き止まりにある。つまり、ケロン洞窟を目的とする旅人しか用がない場所だ。
 確かに昔は町などなかった。洞窟だけが不気味な闇の口を見せていた。
 その周囲にも洞窟はある。初心者でも簡単に入っていける。つまり、この地方のモンスターはそれほど強くないのだ。
 ケロン洞窟を発見し、そこで痛い目に遭った冒険者が、入り口でテントを張った。じっくり戦おうと言うことだ。
 同じように痛い目に遭った冒険者も長期戦になると思い、テントを張った。それが増えていき、ケロンのキャンプと呼ばれるようになった。テント群のことをキャンプ地と呼ぶためだ。
 そのうちテントではなく、小屋を作る冒険者が現れた。テント暮らしでは不便だからだ。ケロン洞窟踏破には時間がかかるため、長居する必要があった。
 小屋が、それなりの家になり、やがて洞窟周辺が村落のようになった。
 そして、商人が入り込み、冒険者向けの商品を売り出した。これがケロンの町の始まりだ。
 ケロン洞窟のモンスターは強いという噂が広がり、物見遊山で来る観光客も増えた。
 最初にテントを張った冒険者は土着し、土産物屋になった。
 結局手慣れの冒険者が洞窟入り口の蛙の化け物ガルトとちょっと交戦するだけで終わっている。
 冒険者達がチームを組み、一気に突っ込んだこともあるが、突破できた試しはない。洞窟の奥に、どんなモンスターがいるのか、今も不明だ。
 
   了


2012年1月30日

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