バイオリズム
川崎ゆきお
だるいと何も出来ないときがある。バイオリズムだろうか。その底にあるのかもしれない。吉田がそう考えるのは、このだるさは病気ではなく、よくあることだと納得したいためだ。
それに思い当たるような病はない。しかし、重い病気が進行しているのかもしれない。そんなことを考えると余計に病んでしまいそうだ。
吉田は友達の桑原に電話する。
「だるい」
「どうした吉田君。何がだるいの」
「体調というか、気分がだるくて、何も出来ないんだ」
「何もって君、何もしていないじゃないか。それで平常だよ」
「やってるよ」
「嘘ばっかり」
「嘘じゃない。昨日もゲームをやってた」
「それは、サボっていたんだろ。有意な行為じゃないよ」
「それはどうだか分からないが、昨日は元気でゲームをやっていたんだ。その前の日も、いや、かなり、ずっとだ。それをしたくなくなる日がたまにある。これってバイオだろ」
「バイオ。怖いね」
「バイオリズムだよ」
「ああ、あの健康曲線のようなアレね」
「桑原君は、そんな日はないかい」
「あるかもしれないけど、気にしないよ」
「でも、何にも手が付かない日があるでしょ」
「忙しくてね。やることいっぱいあるから、何かやってるよ。疲れたら寝るけど。起きているときは何かやってるなあ」
吉田は同意が得られないので、別の友達に電話した。
「だるいときない?」
「ずっとだるいよ」
最初から、同意が得られたようだ。
「そんなとき、どうしてる?」
「何もしないで、ぼーとしてるよ」
「そうそう、その感じ」
「寝てるときのほうが元気かな。頭もしゃきっとしてる」
「え、それじゃ寝付けないじゃいか」
「ああ、だから起きてる」
「そのときはだるくないのかい」
「ない」
「じゃ、起きて何かしたらどうだい」
「そんなことをしたら、消耗して、しゃきっとした感じが減るじゃないか」
「ああ、なるほど」
「僕は、しゃきっとしたいんだ。寝付けないときの、あの頭の冴え具合が好きなんだ」
吉田は同意を得すぎ、超えすぎたので、電話を切った。
しかし、二人と話したので、少しはましになった。
了
2012年2月2日