小説 川崎サイト

 

親衛隊

川崎ゆきお


「あの連中、何? 新入社員なの」
 牧村は、廊下を一糸乱れる行軍中の兵士のようなスーツ姿の一団とすれ違った。
「牧村さん。あれは親衛隊だよ」
「ここ会社でしょ。そんな隊なんてあるわけないよ。でも、見かけない顔ねえ」
「牧村さん、親衛隊は第二秘書課の連中なんだ」
「いつ出来たの、第二って」
「人事課長が退職したでしょ。その後任の田丸さんが作ったみたいよ。社長は大満足なんだって。いい提案をしてくれたと言って、人事課を人事部に格上げすることも考えてるんだって。でも、新課長の田丸さんは、あれをやりたかっただけじゃないかなあ」
「あれって?」
「今、見たでしょ。あの勇姿。親衛隊。旗本。直属部隊。精鋭部隊」
「はあ」
「忠誠心がないのよ。ここの社員。だから、無い物ねだり」
「でも、そんなに部署を増やしても仕方ないじゃない」
「配属する場所がないじゃない。まさか、会社警備員として雇うわけにはいかないでしょ。だから、第二秘書課を作ったのよ」
「じゃ、何をするの、あの連中」
「特殊部隊よ」
「さっきから、すごそうな団体がいろいろ出てくるけど」
「忠誠を誓った連中を欲しかったのでしょ。社長は。それで、人事課の田丸さんの言いなりで」
「分かった。じゃ、黒幕は新課長の田丸さん。人事課だから、自分で採用したようなものじゃない。採用された側は、田丸さんに懐くはずよ」
「それそれ」
「当たってるの」
「当たってるよ牧村さん。実は、あの田丸課長、参謀、策士に憧れているって噂があるのよ」
「好きねえ」
「でもねえ、牧村さん。策士の割には、丸見えじゃない。第二秘書課に旗本近習衆を詰めさせるなんて、丸見えよ。だから、みんな田丸さんじゃなく、丸見えさんと呼んでるの」
「でも、策士でしょ。田丸課長。だったら、それは陽動作戦で、そこに目を集めておいて、別のことをやるのかも」
「違うの。親衛隊は飾りよ。フィギアよ」
「でも、普通のスーツ姿じゃない」
「全員美男子でしょ。危ないわ」
「ああ、そっちか」
 
   了


2012年2月8日

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