小説 川崎サイト

 

一日

川崎ゆきお


 日にちを一日だけ間違えることがある。それだけで世界が少しだけ違って見える。
 竹田は金曜と土曜を間違えていた。本当は土曜なのに、まだ金曜だと思っていた。呑気な話だ。呑気な生活が出来るためだろう。こういうのはビジネスマンでは不可能だ。社会生活上支障が出る。
 竹田にそれが出ないのは、その種の関係が少ないためだろう。人と会うことも希で、スケジュール帳などなくても暮らせる。
 不思議に思ったのは、昼前の散歩中だ。小学校の前を通る。運動場を左に見ながらの、いつもの風景だ。そこで野球をしている。しかも生徒達はユニフォームを着ている。そんな授業はないだろう。普通の体操着のはずだ。さらに同じユニフォームを着た大人が数人いる。先生までそんな凝ったことをするのかと、竹田は見ていた。
 しかし、サッカーの授業では、そんなことはない。
「待てよ」
 と、やっと気付いた。サッカーの短パンをはいた少年達が運動場で練習しているのを見たことがあるからだ。それはクラブ活動だ。すると、今、野球のユニフォームで練習中の少年達はクラブ活動なのかもしれない。しかし、まだ昼前だ。時間が早すぎる。
 実際には土曜日、近くのチームが運動場を借りて練習していただけのことだが、竹田の頭の中では金曜の午前中のため、誤解した状態で見ているのだ。
 竹田は腕時計を見た。短針は確かに午前中を指している。間違いない。それに、今が夕方前であるはずはない。昼食を食べた記憶がないためだ。昼食は近所の喫茶店でランチメニューを食べている。そこで店の人や常連と顔を合わせるだろう。その記憶が今日はまだない。だから、やはり午前中なのだ。時間帯の間違いではない。
 さらに歩いて行くと、子供が自転車に乗ってやってくる。小学生だろう。授業中のはずなのに、こそこそしていない。堂々と走って来る。
 今日は祭日かもしれない。学校は休みなのだ。そう思うことにした。
 正門前に出ると、野球のユニフォームを着た大人が二人立ち話している。二人とも煙草を吸っている。校内では吸えないためだ。しかし、学校の先生が門の前で煙草を吸うとは思えない。ここでも気付くべきなのだ。
 結局竹田が気付いたのは、家に帰ってからテレビを付けたとき、土曜日の番組をやっているのを見てだ。
 しかし、この間違い、勘違いがあっても、生活上何ら支障はなかった。
 
   了


2012年2月12日

小説 川崎サイト