小説 川崎サイト

 

交流センターの戦い

川崎ゆきお


 市営の地域交流センターでの話だ。
 最近バトルが行われており、それを見学する人が、一人か二人いる程度だ。危ないので近づけない状態が続いている。
 地域の人々が気楽に寄れる親交の場なのだが、来る人が限れ、常連の老人ばかりになっていた。その中のボスザル争いが続いており、他の猿たちは逃げだし、残っているのはボス候補の二匹だけ。
 朝から、この二人は口論を続けており、最初は、その喧嘩見学に来ていた外部者も、あまりにも殺伐とし、生々しいので、鑑賞に堪えない。つまり、地味なドキュメンタリーを見ているようなもので、見せ場がない。
 そのことをネットで書き込んだ奴がいる。この施設の関係者で、何とかして欲しいためだろうか。それを読んだ近隣の人が、たまに実物を見るため、やって来る。
「今日は睨み合いだけで、動きがありませんねえ」
「昨日もそうでしたよ。そろそろ飽きてきたんじゃないでしょうかね」
「あの二人、誰なんでしょ」
「コミュニティ覇権者ですよ」
「何ですか、それ」
「場を仕切るのが目的なんです。あの二人、札付きです」
「この地域の人なんでしょ」
「市外参加オーケイなんですよ。ここ。開かれた場にしたい、風通しをよくしたいということで、地域限定じゃないんです」
「あの二人もそうなんですか」
「そうです。まあ、リーダーになれば、それで満足して、出て行きます」
「二人ともそうなんですか」
「二人とも常連で、何度も戦っていますよ。場所が違うだけでね」
「だから、今場所の戦い、来場所の戦いって、場所をいろいろ変えているんです。でもあの二人は横綱ですから強いです。だから、強い二人が同じ場所で戦うと、長引きます。一日じゃすまないんです。それに、もう最近は話し合うこともない。睨み合いですよ。根比べ、スタミナと気合い勝負です。勝とうとする気持ちが強いほうが勝つ。そういうピン差の戦いなんですよ」
「ありがとうございました。解説」
「いえいえ、もうほとんど見せ場はないですから、僕も、来ることはないです」
 地域交流センターのオープンスペースにはゆったりとしたテーブルがあり、椅子が並んでいる。二人は、その両端に座り、じっと睨みみ合っているだけ。
 たまに何も知らない地域の人が、散歩のついでに寄ることがあるが、恐ろしい殺気が入り口にいても伝わり、それ以上近づけない。
 そして、この戦いは、消耗戦となり、二人とも疲れ果てた。
 いつの間にか、二人とも来なくなり、もうボス戦はなくなった。
 それで、オープンスペースは平和を取り戻したのだが、利用する人は希だ。
 誰かが先に入っていると、出てくるまで待つ。
 人と顔を合わせるとトラブるためだ。
 
   了
 
   


2012年2月18日

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