小説 川崎サイト

 

ゴジラ対モグラ

川崎ゆきお


「これは、どんなものでしょうか」
「まあ、話してみなさい。聞くだけは聞きますよ」
「じゃ、それは夢だったということで、お願いします。見た夢を語っているのですから」
 語り部は福島で、聞き手は浜岡だ。二人とも野良仕事の合間、畝に座り雑談するのが好きなようだ。二人ともプロではない。語り部のことではなく、野良仕事が本業ではない。家庭菜園なのだ。二人の区間は隣り合わせのため、話し合うようになった。
「土いじりをしていたのですが、穴を掘ってみたくなりましてね。このあたり、少し掘ると水が出ます。それで、池が出来るのではないかと思いました」
「この畑ですか」
「いえいえ夢の中の土地ですよ」
「ああそうでしたね。夢の話でした。はいはい」
「その土地は、僕の家の庭で、隅っこにありました。メイン箇所は、もうすっかり手入れしていましたから、手つかずの日当たりの悪い場所です。だから、この隅っこは放置していたので、雑草が少し生えていました。ここからは開墾の楽しさです」
「いいですね。そういう荒れ地を開墾し、畑にし、作物を植える。この過程がいい。徐々に出来ていく。昨日と違う今日がある」
「はい。続けますよ」
「どうぞ」
「少し掘り進むと、小石や、煉瓦や瓦が出てくる。瀬戸物もね。きっと前の一家が穴を掘って捨てたのでしょうね」
「あなたの家じゃない?」
「僕の家ですが、中古です」
「はい。了解」
「深く掘ろうとしたため、周囲は絶壁のようになりました。早く水を見たかったのでしょうね。三十センチほどで、もうスコップが入りません。やはり広い目に掘らないと、深く掘り進めないんでしょうね。しかし、水が出てきました」
「水が出たとき、あなたは寝小便をしていたのじゃないですか」
「ああ、違います。睡眠中尿意で起きることがありますが、それはトイレですませている夢です。それで、安心して寝ている。しかし、何度も何度もトイレへ行く夢を見る。それでやっと気がついて、起きるのです。当然大人になってからは寝小便などしていませんよ。ただ、夢の中で、気持ちよく用を足している夢は見ます。今、話したように、用を足したと思うことで、もっと寝ようとしているわけでしょうが」
「穴はどうなりました」
「はい、水がわき出しました。狭い穴なので、半分ほど水に満たされましたが、それ以上水位は上がりません。逆に減っていきました。まあ、三十センチ掘っただけで、井戸が出来る道理がない。それに地下水としては、浅すぎましょ。だから、毛細血管のようなものにぶつかった程度だと思います」
「はい」
「それで、絶壁なんですが、石が落ちて、横穴のようなものが空きました。狭い穴なので、横穴の深さはわかりません。鏡を持ってくれば見えたでしょうが。その横穴から、砂が落ちてきました。そして、虫が頭を覗かせたのです。オケラだろうと思いましたが、これがなんと、ゴジラなんです」
 ここで、聞き手は引いた。
「ゴジラは横穴から、這いずりだし、そのまま穴の底にたまった水の中へ落ちました。そして、横穴からもう一匹。これはモグラでした。ゴジラはモグラに追われていたのです」
 聞き手は沈黙している。
「泥んこになったゴジラは、上を向き、横穴から頭を出したモグラに口から青いものを吹きかけました。モグラは火に包まれました。黒こげになったモグラは、横穴に逃げ込みます。その尻めがけて、ゴジラは噛みつきました。しかし、モグラのほうが大きいのです。逃げるモグラにゴジラは引っ張られ、横穴に引きづり込まれる感じです。噛みきれないでしょうね」
 聞き手の相づちはない。それよりも、姿がない。
「浜岡さん」
 浜岡の姿はない。
 福島は、いくら嘘話でも、もっと上手く話せば、よかったものをと、少し悔やんだ。
 
   了


2012年3月10日

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