小説 川崎サイト



何してるの

川崎ゆきお



 コンビニを出たとき小田は同級生の村瀬と出くわした。
「何してるの?」
 村瀬が尋ねる。
「昼の弁当を……」
「じゃなく、最近何してるの?」
「何って?」
「仕事だよ」
「してるさ」
「何の?」
「色々とさ」
「仕事してんの?」
「だから、色々とやってると言ってるだろ」
「その色々を知りたいねえ」
「弁当冷めるから、また今度」
「働いてないんだろ?」
「色々やってるよ」
「例えば?」
「冷めるから」
「何が?」
「弁当が」
「帰ってから家で食べるの?」
「そうだよ」
「昼間から家にいるんだ」
「君は?」
「俺は用事でコンビニに来たんだ」
 村瀬は駐車場の車を指差した。
「前の会社か?」
「聞くなよ」
「会社の用事でコンビニに来たの?」
「俺のことはいいよ。お前のことが気になるんだよ。仕事にも行かないで、ずっと部屋住みしてるんじゃないかってね」
「部屋住み?」
「自室勤務ってことさ」
「外には出てるよ」
「運動不足だから出てるんだろ? 仕事で出ているんじゃないんだろ」
「だから、色々さ」
「例えば?」
「弁当冷めるから」
「そんなの帰ってからチンしなおせばいんだよ」
「君は急がないの? 会社の用事だろ」
「それよりお前のことが気になるんだよな」
「だから、色々と仕事やってるって言ってるだろ」
「例えば?」
「派遣の仕事してる」
「派遣待ち中か」
「派遣会社を起業したんだ」
 村瀬は黙って、コンビニの中へ消えた。
 小田は派遣会社社長であり、そこの派遣員だった。つまりバイトで食いつないでいるという意味なのだが……
 
   了
 




          2006年7月24日
 

 

 

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