小説 川崎サイト

 

コーヒー牛乳

川崎ゆきお


 高村は夜中にコーヒー牛乳が切れたので、コンビニへ買いに行った。
 店内は無人だ。夜中のためだろう。それで、コーヒー牛乳一リットル入りの箱をレジ台に置くと、店員が走ってきた。そして、煙草の銘柄を言われた。
 高村は買う気はなかったが、買った。いつも煙草だけを買いに来ていることが多いので、レジの前に立つと、それだと思ったのだろう。この店員は新人だ。
 しかし、煙草はまだ切れていないので、買うつもりはない。どうせ買うのだから、早い目に買ってもよい。
 現に煙草は切れかかっているのだが、ここで買おうと思わないのは、万札の問題だ。千円札や五百円玉を出すと、万札しか残らない。翌朝、十枚綴りのコーヒー券を喫茶店で買う気でいた。
 コーヒー券が切れたのだ。三千五百円だ。これを財布の中に残しておきたい。
 だから、その夜はコーヒー牛乳だけを買うつもりだった。しかし、店員は、煙草を買いに来たと勘違いしている。その先読みは正しいのだが、店員の記憶力自慢に巻き込まれてはいけない。新人なので、それが分からないのだろう。知っていても黙っていればいい。高村は九十パーセントまでこのコンビニに入れば煙草を買う。だが買わないときも十パーセントほどある。他の店で買っている場合があるからだ。
 店員が錯覚したのは、後ろ姿を見たためだろう。レジ台に置いたコーヒー牛乳が高村の姿で隠れている。そして、店員は寝ていたのだ。顔がむくみ、やや赤い。声もかすれている。
 高村は、店員の思惑通りに、頷いた。
 すると店員は煙草を一箱取り出した。しかし、いつも買うのは二箱だ。新人店員はそこまでの記憶はなかったようだ。
 
   了

 


2012年4月23日

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