小説 川崎サイト

 

疑惑

川崎ゆきお


 動物村での話だ。
 動物が多い村ではなく、動物の村だ。だから村長も動物だ。人間も動物なので、ここでは人間以外の動物しかいない村ということにしておく。
 複数の動物が、人間のように暮らしている。だから、おとぎ話、ファンタジー世界だ。
 ファンタジーとは、人間が勝手に作り出した仮想世界で、矛盾に満ちている。なぜなら、自然界の法則に反するからだ。
 だが、その動物村は、反しながらも、人間の村と同じように、動物たちは振る舞っている。
 ある日、村人が狩りに出ることになった。動物が動物を狩るわけだが、どんな動物が狩られるのだろうか。
 動物村の住人は人と同じだ。だから、動物が動物を狩るのは、人狩りに近い。村に属してない野生動物を狩るわけだ。これは共食いになる可能性が高いため、動物村には参加していない動物を設定する必要がある。この場合、それが鳥となった。
 鳥の中でも飛べる鳥は村人にはなれない。
 それで、村人はその日、鳥狩りに出かけるわけだ。
 そして、村に残るのは女子供だけになる。その留守を与る大人の動物が必要だ。確かに老いた動物はいるが、役に立たない。
 他の村から攻められるおそれはないが、たまに野生の動物が入ってくる。この場合、鳥が多い。
 特に守らなければいけないのは、女子供やお年寄りではなく、食料庫だ。
 そこで、動物の中の一人が声を上げた。留守番をかって出たのだ。どちらがメリットがあるのは分からない。ただ、留守番は面白くない。そのため、体調を崩した大人の動物がなることが多い。
 その日は、みんな健康で、元気なのだ。
「私が倉庫番をやりましょう」と、言ったのが、狐だ。
 狐が食料庫の番をすると言うことは、もうそれだけで疑わしい。
 狸なら、それほど疑われないだろう。留守番のつもりで寝てしまい、食料を奪われるかもしれないが、狸そのものを疑わない。
 だが、狐は疑惑がかかる。そして、自分から名乗りを上げているのもおかしい。きっと魂胆があると村人は考えるのは当然だ。
 実はイタチも倉庫番をしたかったのだが、狐ほど利口ではない。だが、自分が疑われることは、イタチもそれとなく分かっている。
 狐が利口なのは、悪知恵だけで、ずるいことには長けているが、ふつうのことでは、知恵を働かせない。そして、倉庫番など言い出すと、きっと疑われることを知っていて、名乗りを上げたのだから、策があるはずだ。
 村人の誰もが、疑った。狐に任せては危ないことを知っていたからだ。
 しかし、狐はまだ盗みはやっていない。
 それなのに疑うのはよくない。
 だが、誰が考えても、ふつうに食料庫を守る倉庫番をやるとは考えていない。
 きっと、食料を盗むだろう。
 村長の山羊は、狐に任せる決意をした。人を信じたのだ。この英断で、倉庫番は狐に決まった。
 そして、狩りから戻ってくると、食料庫には何も残っておらず、狐の姿も見えない。
 それはもう当然の結果だった。
 山羊村長は悔やんだが、これで、村から狐が消え、もう、疑わしい村人はイタチ以外いなくなった。
 今度は、イタチが標的になった。何かことあるごとにイタチが疑われた。狐さえいてくれれば、イタチは安全だったのだ。
 村人の視線に耐えられず、イタチは村を抜けた。
 次は狸の番だった。
 だが、狸は狐ほどには賢くはないが、ぼけるのがうまかった。
 それでも長くは続かなかった。おとぼけが通じなくなったのだ。
 そして、狸も村を去った。
 次は誰だろうかと、村人は顔を見合わせた。
 
   了


2012年4月26日

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