小説 川崎サイト

 

土管

川崎ゆきお


 城山が嬉しそうな声で叫んでいる。
「土管が発見されたんだ」と。
 それを聞いた奥田は、意味が分からない。
 城山と奥田は幼なじみだ。もう二人とも白髪のお爺さんだが。
 奥田は土管の意味を探ろうとした。城山と土管との関係だ。
 城山との会話の中で、土管に関するものを探した。十年。二十年。全く記憶にない。
「あの土管だよ。あの土管が見つかったのだよ」
 城山はさらに続ける。
 奥田は話を合わせるためにも、意味を知る必要がある。だが、もしかすると城山だけが知っていて、奥田には関係のない話なのかもしれない。共有していない話なのではないか。
「あの土管だよ。あの」
 どうも二人とも知っている土管である可能性が高くなった。
「どの土管だよ。土管にもいろいろあるだろ」奥田は本当に分からないので、問うてみた。
「幻の土管だよ。夢の跡だよ」
「それが見つかったのかい」
「ああ、工事中にね。あの土地は田中さんの牧場だったんだな」
 町中に牧場があったのは、かなり前の話だ。おかげで年代が分かった。その土管の話の。
「ほら、よくみんなで隠れ家にしたじゃないか。原っぱの土管だよ」
 奥田はやっと思いだした。隠れ家、基地。家出して逃げ込んだ場所。ルンペンが二ヶ月ほど住んでいたこと。等々。
「見に行って来いよ。思ってたより細いんだ。よくあんなところに入っていたなあ」
「ああ、あとで、また見ておくよ」
「早くしないと、壊すそうだよ。もうひびが入ってるし、かけてるところもあるし、土色になって、別物だよ。埋まっていたんだから土管本来の居場所で年を重ねたのかもしれないけどね」
 原っぱに土管。もうかなり前からその組み合わせは見かけなくなった。
 まさに幻の土管だ。
 
   了


2012年5月22日

小説 川崎サイト