小説 川崎サイト

 

メイキング野球

川崎ゆきお


 ピッチャーの長崎は野球に熱心なあまり、学業がおろそかになっていたので、そのバランスを回復するため、猛勉強を始め、その結果スポーツと学業とを両立させることに成功した。
 サードの高波は、仲の悪かった弟との関係を修復した。これまで以上に会話を増やしたためだ。そして、人間的に一回り大きくなった。
 セカンドの本橋は打率と歯の関係を知らされ、虫歯の治療や、悪い歯を治し、差し歯をつけた。これで、かみ合わせがよくなり、打率が上がった。
 ファーストの三村は小学生時代の草野球監督を見舞い、必ず勝って甲子園へ行くことを誓った。その約束はきっと守ると。そして、恩師から教えられた野球の心を改めて心に刻んだ。
 キャッチャーの磯村は鈍足を気にし、寺で座禅を組んだ。住職は、我が身そのものを受け入れることこそが大事と諭した。磯村は欠点こそ長所と思えるようになり、鈍足を気にしなくなった。
 センターの君原は、陸上競技部で、棒高跳びの特訓を受けた。異なった競技をすることで、得るものがあったようだ。
 その他の選手は、主力メンバーの変化に気付き、それぞれ何らかの変化を遂げた。ある者はわだかまりのあった両親との関係を修復し、またある者はいつも吠えかかる隣の家の犬をなだめることに成功した。
 中でも監督はあの世との交信とも取れるような体験をした。それは二十年前甲子園で優勝したときの監督が夢枕に立ち、勝利の秘訣は諦めない心だと知らされた。
 そして、甲子園への切符が手に入る地方大会の決勝戦に挑んだが、僅かな差で負けた。
 余計なことをしすぎたためだろう。
 
   了

 


2012年5月31日

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