大きな川が流れており、その土手や河原は近所の人の散歩コースとなっていた。
といっても昼間から歩いているような暇人はいない。たまに釣り人がポツンポツンといる程度だ。
その日はかんかん照りで、日影のない川沿いに出る人はさらにいない。
その中を一人の男が歩いている。中年男で大きな帽子を目深に被っている。西部劇に出てくるカウボーイの帽子に似ている。肩には牛革のショルダーバッグを引っ掛けている。
歩いていてもバッグは揺れない。体にすっかり馴染んでいるのだろう。
「おやっ?」
男は河原の上流から歩いて来る人影を見付けた。
「ただの散歩者じゃない」
人影は徐々に近付く。
河原の幅は広いが、どちらも真ん中を歩いている。このままではぶつかる。
どちらも敢えてそうなるように進路を定めているのか、徐々に衝突時間が迫る。
上流から来た男はカウボーイハットの男と同年配だが無帽だ。真っ黒に日焼けしており、前から見る頭はオールバックなのだが、長髪を後ろで括っており、馬の尻尾のようだ。
夏向けの白いスーツ姿だが、どこか薄汚れ、皺っぽい。
そして至近距離にまで近付いた。
二人は立ち止まる。互いの値踏みをしているのだ。
まるで野良犬同士が牽制し合う感じだ。
「一癖あるなあ」
二人とも同じ感想だった。
「こういう男と係わると結局損をするのは俺だ」
これも同じ感想だ。
「やあ」
カウボーイハットが先に声をかける。
「おお」
長髪が声だけ返す。
「インチキ?」
「ははは」
「次のネタ探してる?」
「休憩さ」
と、言いながら長髪は横の草場で腰を下ろす。
カウボーイハットは、その誘いに乗ると面倒になると思い、無視して歩きだした。
「ちぇっ」
長髪は草の上で寝転んだ。
曲者は曲者を知る。それだけのことだ。
了
2006年8月2日
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