小説 川崎サイト

 

一人参謀会議

川崎ゆきお


 決め事をすると覆したくなる。最近山田はそう思うようになった。これは以前からも分かっていたことで、薄々感じていたことなのだが、それに触れるのが怖かったようだ。
 山田は一人参謀会議が好きだ。この行為は、一人で喫茶店に入り、そこを参謀席とし、作戦を練る場としている。参謀総長は自分だし、そのメンバーも自分だ。一人何役かをする。
 その姿は、ただ喫茶店でノートパソコンを開いて、ぶつくさ独り言のようなものを打ち込んでいるだけ。その前の時代は紙のノートを開き、そこに思うところを書き出していた。
 そして、参謀会議で何かを決める。仕事だけではなく、生活や健康状態、友人関係なども、この参謀会議にかけられる。そのため門外不出、極秘情報だ。
 そこで戦わせた意見から、参謀総長が最終的に判断し、結論を出す。くどいようだが、それらは山田が一人でやっている。
 そして、出た結論はしばらくは持つが、ある時点で通用しなくなる。作戦通り進行しなかった場合や、そのやり方ではまずくなるためだ。
 それで、修正案を提出する。ここまではノーマルで、普通だ。
 ところが、最初の方針とは全く違う方針が急に出てきて、一気にそちらへ流れることがある。その新方針は、一度会議にかけられ、色々な意見として上がってきたものだが、会議では否定されている。
 そして、山田の一人参謀会議は、この否定したものが、いつの間にかメインになることだ。これに気付きだしてからは、参謀会議で本決定したものは、飾りではないかと思うようになった。
 では、参謀会議の結論は意味がなくなる。そして、そのための会議も必要ではなくなる。
 だから、もう一人参謀会議などしなくてもいいのだ。どうせ、決まり事は覆されるのだから。それをしているのは本人だが。
 しかし、メインの方針通りには行かなくても、そこからどの程度ずれているかを知る意味で、この会議は必要なのだ。本来とどれだけ食い違っているのかを確認するためにも。
 そして、最近の山田は、参謀会議そのものを楽しむようになった。それが出来るのは、決まったことを守る必要がないためだ。
 物事は参謀会議では決まらない。だが、一応色々な意見を聞くことは必要で、どの方針に決まるかは随意だ。
 つまり、参謀会議事のコンディションで、結論が決まることが多いのだ。
 そのことを知りつつ、山田は今日も一人参謀会議を開いている。
 
   了


2012年6月15日

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