小説 川崎サイト



ゲーム

川崎ゆきお



 望月はテレビニュースで事件を知った。犯罪の詳細よりも、似たようなことをしていた犯人だったので気になった。
 犯人は会社を辞め、再就職しないまま家に籠もり気味で、買い物で外に出る程度だった。
 ここまでは望月と同じだ。
 そして家でパソコンやゲームで遊びながら日々を過ごしていた。そこも同じだ。
「同じじゃないわよ」
 妻の利絵が言う。
「私達には子供がいないじゃない」
「そうだな」
「近所の人に怪しまれないかなあ?」
「近所付き合いなんてないでしょ。マンションなんだから」
「俺は市営住宅にいた頃はあったぞ」
「ここはないから買ったんでしょ」
「そうだな」
 結婚したとき、親から買ってもらったマンションだ。ローンを払う必要はない。
「心配なら仕事に出たら?」
「特技もないし、この齢だよ。ろくな就職先はないさ」
 退社後、旅行や大きな買い物は控えている。贅沢さえ言わなければ食べていける身分だ。
「ねえ、前やってたゲームはどうなったの?」
「飽きたからやめた」
「もっと面白いの探してよ」
「今調べてる」
「今度こそ二人でチームを組んで、大暴れしましょうよ」
「そうだな」
 リビングには何台もパソコンがある。会社の仕事を家に持ち込んでやっていたのだ。
 どのパソコンもネットに繋がっており、夫婦でネットの世界に填まり込んでいるのだ。
「ねえ、この高校生可愛いと思わない?」
 利恵はノートパソコンを望月に向ける。
「また、そんな出会い系やってんのか?」
「会えないんだからいいじゃない」
「君は中学生だからね」
 利恵は舌を出す。
 つけっ放しのテレビがあの事件の続報を伝えている。
「気になる?」
「家に籠もり気味の中年夫婦の犯罪……」
「働きに出ても同じじゃない。今よりも辛くなるわよ」
「そうなんだよ。他にやることがないから、こんなことしてるんじゃないんだよ。これがやりたかったんだよな」
 望月はモニター上のモンスターを一撃で倒した。
「やるじゃない。私もインする」
 
   了
 





          2006年8月3日
 

 

 

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