小説 川崎サイト

 

天職

川崎ゆきお


 これはあるファンタジー世界でのお話だ。
「最近鳥に似てきた」
「僕は蜂に似てきました」
 一人は鳥狩りで、一人は蜂狩りだ。鳥といってもほとんど飛べない巨鳥で、蜂といっても犬ほどはある。比率でいえば、蜂の方が鳥よりも大きい。二人はそれらを狩ることで、生計を立てている。
 鳥狩りは最初から鳥顔をしていた。鳥と縁があるのだろう。蜂ではなく、鳥狩りを選んだ。鳥を狩り続けたことで、鳥顔になったわけではなく、最初から鳥顔だったのだ。しかし、最初の頃はそれほど目立った鳥顔ではなかった。
 蜂狩りも最初から蜂に似ていた。小さな顔で中央に目鼻が集まっている。顔がひとかたまりのこぶのような感じだ。蜂は全体を見て蜂を認識する。だから、蜂の顔はあまり意識して見ていない。そのため、鳥狩りは蜂狩りの顔が蜂に似てきたといってもぴんとこない。ただ、蜂狩り体型が昆虫に近いくびれ方をしている。
 鳥狩りは似てきても、顔だけで、羽が生えてきたわけではない。しかし瞬きが極度に少なく、じっと同じ目玉でいることが多い。蜂狩りの目はよくわからない。位置さえ分からない。大きすぎるため、そこまで目の領分かと思うほどだ。
「そういえば獅子狩りは獅子に近い顔だね」
 鳥狩りが言うと、蜂狩りも同意する。
「君は獅子狩りをする気はないのかね」
 蜂狩りは、ないと答える。
「だったら、最初から君は蜂に縁があるんだ」
「あなたも鳥に縁があるのでしょ」
「縁というか、相性がいい。蜂狩りや獅子狩りはしたいとは思わないが、鳥狩りならしたい。まあ、してみてもいいってとこかな、それで鳥狩りになったんだ。別に誰かから勧められたわけじゃない」
「私もそうです。蜂となら戦ってもいいんです」
「それがよく分からない。なぜ蜂なんだい」
「私にも分かりません。ただ何となく蜂狩りの募集があったので、蜂狩りを選びました。そのとき鳥狩りも獅子狩りもありましたが」
「そこも似ているなあ。なんだろうねえ。この問題は」
「問題なんですか」
「僕はより鳥顔になるために鳥狩りになったのかもしれない。まだまだ鳥とはほど遠い。もっと鳥顔になってみたい。未だ未完成だ。しかし、鳥顔になっていくのは結果論でね。最初から鳥顔の度合いを上げようとしたわけじゃない。最近気付いたことなんだ。それに動作も鳥に似てきている」
「このまま狩り続けると、あなたは鳥に、私は蜂になってしまいそうです」
「僕はそれでも構わないが、鳥になれるわけがない。人間なんだからね。それに鳥になってしまえば、狩られてしまうよ」
「そうですねえ。でも似すぎると、鳥に間違えられて狩られたりして」
「だから、それはない」
「そうですねえ。そこまで似せられないですよね」
「しかし、町に出ると、僕は黙っていても鳥狩りだと分かってしまう。これは便利なようで、不便だ。プライベートをさらしているようで」
「そうですねえ。町では何者か、分からない方がいいです。私も蜂狩りだってすぐにばれてしまいますから、蜂の話ばかりになります。嫌いじゃないですけど、町に出たときぐらい蜂から離れたいです」
「ああ、それは言えてる」
「でしょ」
「うんうん」
 二人は、その後、ずっと同じ生業を続けた。天職というのがあるのだろう。
 
   了


2012年7月5日

小説 川崎サイト