小説 川崎サイト



二度埋め

川崎ゆきお



 不思議な気配を感じる人がいるようだ。
 そして不思議な場所があるものだ。
 その場所は交通事故が多く、路肩に献花が絶えないほどだ。
 住宅地の中のありふれた道で、小学校の通学路にもなっている。
 その場所は見晴らしもよく、交差点でもない。
 霊感のある人は、そこを通過するとき、寒気がすると言う。それは大げさだが、数度温度が低くなるのだろう。
 霊感情報で、ここは危ないので通学路を変更すべきだとは言い出せない。学校側も書類が作れないだろう。
 しかし、散歩中の犬が急に通行人に吠えかかり、児童が噛まれそうになった。そのときも犬が原因であり、霊的なものだとは解釈されなかった。そういう霊スポットとして有名ではなかったし、そうだとしても、原因にはならない。
 ややこしい場所だとは立ち番も知っており、登下校時には必ず誰かが立っていた。
 原因がどうあれ、交通事故が起こりやすい場所であることは事実なのだ。
 歩道や路肩を走る自転車の転倒も多い。当然子供もよくそこでこける。
 保護者の一人が妙な女の子を見た。
「今の子供じゃないよ」
 同じように妙なものを感じていた近所の人も、同調し始めた。そして、妙な存在が原因ではないかということで、何とかしようと調べ始めた。
 この町内に昔から住んでいる人はいない。住宅地となったのは二十年ほど前だ。それまでは農地だった。
 かなり離れた場所に農家だった人の家がある。保護者の一人が、そこから聞き出した。
 あの道は池の堤があった場所らしい。農業用の溜め池で鎌倉時代に掘られたようだ。
 保護者が見た妙な女の子は着物を着ていた。
 元農家の老人はそれ以上話したがらないようで、女の子のことを聞き出せなかった。
 保護者は市に問い合わせたが、溜め池があったことぐらの情報しか持っていない。
 しかし、郷土史家のお爺さんを紹介してくれた。
「やっと言い出しましたな」
 お爺さんは着物を着た女の子のことを知っていた。
 溜め池を掘るときの人柱になった少女で、埋めた場所があの位置だということだった。地蔵さんが立っていたが、池を埋め立てたとき、一所に埋められたらしい。
 保護者たちの働きかけで、新しい地蔵がすぐに立った。
 
   了
 



          2006年8月7日
 

 

 

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